第十話 実況

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第十話 実況

「つまるところ、お前らだけ顔を隠してこそこそしてないで、仮面を外して堂々としてれば? ってことなんだよね」    その場にいる全員の仮面を強制的に収納した後、海渡はそう付け加えたが、勿論堂々とやっていればいいと言えるような話ではない。ただ、せめて顔ぐらい晒せよという話なのである。  そして当然だが仮面が外れたことで会場内にどよめきが走った。  一方海渡が消えた後の校舎では杉崎が愛用のタブレット端末にキーボードを繋げてカタカタとキーを叩いていた。その顔には興奮の色が見える。 「おいおいマジかよ。海渡から届いたこれ、奴らの心臓部へ直結してるじゃねーか」 「杉ちゃん、心臓部って?」  杉崎のタブレットに海渡からBINEでメッセージが届いた。どこかのアドレスが記されており、それをチェックした瞬間から杉崎の顔つきが変わったわけだが。 「このふざけたゲームを開催している運営のサーバーだよ。しかもセキュリティーに穴があいている、セキュリティーホールって奴だな。だから余裕で中深くまで入り込める」 「お、おいおい本当かよ! そんなものネットに繋がっているものなのか?」 「いや、恐らく元々は当然運営内部だけのネットワークで構築されていたんだろうが、それが今は外にだだ漏れしている。これも海渡がやったのか? て、おいおい会員名簿まで覗き放題かよ。運営の機密データまで余裕で手に入るぜ」 「それが手に入るとどうなるの?」 「当然、奴らが散々ひた隠しにしてきた犯罪データを公に出来るってことだ。よし! 内部の監視カメラにも侵入できた。これでっと!」  杉崎は軽やかにキーを叩くと、画面にどこかの会場の様子が映し出される。 「あ、海渡くんだ」 「こんなところで何をしてるんだあいつは?」  佐藤委員長が画面に映る海渡の姿を認め驚いた顔を見せ、矢田先生も首を傾げた。 「海渡と話しているこいつらは一体?」 「そいつら、俺らを賭けにして愉しんでいたような屑連中だぜ」  疑問の声を上げる虎島に杉崎が吐き捨てるように返した。そこには多くの客の姿があり、一様に仮面で顔を隠していたが、しかしそれもしばらくして全員の仮面が外れることとなり。 「お、おいおいマジかよ。そっちに映ってる女、世界中の映画に出ているような大スターだろ?」 「ネットでやたら話題になってたような奴もいるぜ」 「この人、確かKY銀行の頭取じゃ?」 「元総理や海外の大統領の姿もあるぜ。これはちょっとした事件じゃねーのか?」 「ちょっとしたじゃない。大事件だよこれは」  生徒たちが口々に話題にしている中、矢田先生が呆れるように言った。  すると一人不安そうな顔を見せる美少女の姿。画面を食い入るように見ながら慌てた口調で杉崎に問いかける。 「ま、まさか! わ、私のお祖父様やお父様がいたりなんてことは!」 「うん? あぁ大丈夫だ。金剛寺グループの関係者の姿はないし名簿にも載っていない」 「よ、良かったですわ」  杉崎の話を聞いて金剛寺がホッと胸をなでおろした。 「……ま、金剛寺グループも有名だけど、ここに載ってる連中と比べたらちょっと霞むしな」 「な! よ、余計なことは言わなくて宜しいですわ!」  金剛寺が叫ぶ中、再び杉崎が画面に目を向けると。 『き、きさま! こんな真似してただですむと思っているのか!』 『何かくれるの?』  仮面を外されたことで憤る会員連中にキョトン顔で答える海渡の姿が映っていた。その心胆の強さに杉崎も思わず苦笑する。 『ふざけるな!』 『全員落ち着け。仮面がないから、な、何だといいうのだ。それで外に情報が漏れるわけでもあるまいし』 「いやいや、バッチリ漏れてるんだよねこれが」  杉崎が海渡と会員達のそんなやりとりにほくそ笑みながらキーを叩く。世界中の動画配信サイトにつなげるつもりだ。この様子を全てネットで晒してやればきっと面白いことになる。  画面の中ではそんなこともつゆ知らず、客たちが海渡に向けて強気な発言を続けていた。 「お前の家族全員を突き止めて人生終わらせてやる」 「運営に頼んで家族親族全てこのゲームに参加させるのも面白いわね」 「そうだ。全員の首にあの首輪型爆弾を装着して殺し合わせろ!」 「いつ爆発するかわからない恐怖に怯え互いに殺し合えばいい!」 『そんなに爆弾が好きなら自分たちでも体験してみたら?』 「何だと?」  好き勝手なことを口にする観客達に向けて、海渡が指を鳴らすと、その首に見覚えのある輪っかが装着された。 「「「「「「「「は?」」」」」」」」    海渡を嘲り強気な発言を繰り返していた連中の目が点になる。  海渡がマイクを使ってその説明をした。 『言うまでもないと思うけど、その首輪型爆弾はこのゲームに参加させられた生徒に付けられていたものと基本的には一緒だ』  そう伝える。ちなみにクラスメートから外したものがベースだが、それでは数が足りない。    故に海渡はエニシングコピーという魔法で首輪を複製した。この魔法はあらゆる物を複製できる。  しかもその上で複製したものに干渉し効果を変化させることも可能だ。  そして次元収納から取り出して目の前にいる卑怯者たちの首にはめた。次元収納に収めてあるものは取り出す時には直接相手に装備させたりも可能である。矢田先生の服もその方法で着せてあげた。 「ば、馬鹿な! ありえない! こんなの偽物に決まっている!」 「そうよ。一介の高校生がどうにかできるものじゃないわ!」 『ちなみにこの首輪が皆さんについているのと一緒のものです』  海渡はもう一つ首輪を取り出し、そう口にした後、思いっきり地面に投げつけた。強い衝撃により首輪がドンッ! と爆発する。その様子を見ていた観客たちの顔からみるみる血の気が失せていった。 『ちなみにもうタイマーは作動しているからその爆弾、1時間後には爆発する』  海渡が説明すると、全員が首輪を確認し始めた。みると確かにデジタルな数字が60を示しており、しばらくして59に変わった。分刻みでこの数字は変化する。 「な、なにぃいいぃいいい!」 「い、嫌だ! 死にたくない!」 「お、おい、お前! 金ならいくらでも払う。だから私を助けろ!」 「だ、だったら私は1億、いえ、10億支払うわ! だから助けて!」 「俺は50億支払う! いや! 100億だ! どうだ見たこともない大金だろ! さぁ今すぐ助けろ!」 「だ、だったらこっちは好きなもの何でも買ってあげる!」  首輪が本物だと感じ取ったのか、海渡に向けて観客たちが命乞いを始めた。金も支払うと言っている。見ていて見苦しいなと海渡は思った。 『別にお金はいらないな。だけど、助かる方法はあるよ。それの仕組みはお前らの知っている首輪とほぼ一緒だと言っただろ?』 「ほぼ一緒……そ、そうかこいつらを殺せば! 時間が伸びるんだな!」 「な、なんですって!」  観客たちの顔がこわばる。全員が全員を警戒し始めた。だが、海渡は違うよ、と一言伝え。 『むしろ殺してもすぐ爆発するからやめておいたほうがいい』 「は? だったらどうしろと言うんだ?」 『効果は変えてあると言っただろ? その首輪は情報で時間が伸びるようにしてある。おまえたちが知っている他者の情報次第で時間は延長される。勿論普通の情報じゃ意味がないけどね。知っている限りの全員の悪事でもバラせば命は助かると思うよ』  海渡が説明すると、全員が周りにいる連中の顔をそれぞれ見ていき。 「そ、そいつはインサイダー取引で金を不当に得たことがある!」 「な、おま、裏切ったな!」 「そっちの男は、幼い子どもを裏で手を回して攫わせて性欲を満たした上に殺している屑よ!」 「ふざけるな! お前こそとっかえひっかえした男を次々殺して生命保険を手にしていた過去があるだろうが!」 「そっちのハゲは闇商人よ! 世界中のテロ組織に武器を卸している真性のクズよ!」 「そっちの女は大女優とか抜かしてるけど、気に入らない相手やライバルを金で雇った暗殺者に殺させていたような大悪党だわ!」  こうしてデスゲームを観戦しにきていた客たちの大暴露合戦が始まった。彼らは気がついていないがこの内容は杉崎によって目下世界中に配信中である。 「全く醜いものだね」  海渡が呆れたように呟く。助かりたいが為に、暴露しあい、中には怒りに任せて暴行を働くものもいた。死んだら爆発するが死ななければタイマーが0になるまで爆弾が作動することはない。  海渡は勿論止める気はなかった。サバイバルロストなどというデスゲームを眺めながら高みの見物を決め込み、賭け事までやっていたような連中に同情する余地はない。 「さて、最後の仕上げといくかな」  そして醜い争いを繰り広げる連中は放っておき、海渡は再び転移魔法でその場から消え失せた。
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