第十二話 夢の中で

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第十二話 夢の中で

「片付けてきた」  海渡は皆の元へ戻るなり、全てが終わったことを暗に告げた。全員顔を見合わせるが、直後大きな歓声が沸き起こる。 「海渡! すげーよお前!」 「てか、一体何者?」 「なんでもいいよ。俺たちは助かった!」 「家にも帰れるのね……」 「ふぇぇええん、怖かったよ~」    クラスメートは大いに喜んだが、中には気が抜けたことで泣き出す物もいた。 「お、おわった……ははっ」 「おっと、大丈夫?」 「え? あ、ありがとう海渡くん……」  そして佐藤委員長もまた、気が抜けたのかふらっと倒れそうになるが海渡が上手いこと支えてあげる。   「大丈夫委員長?」 「うん、ありがとうスズちゃん」    鈴木も心配そうに委員長の顔を覗き込んでいた。そして海渡の手から鈴木に移り、椅子に座らせてあげる。 「でも、本当にありがとうね! 私からもお礼を言わせてよ」 「別にいいよ。やれることをやっただけだし」 「そのやれることが凄すぎるんだってこの野郎!」  背後から杉崎が腕を回してきて笑顔をほころばせた。 「しかし、連中の顔、こっちからも見ていたけど本当、ザマァ! って感じだったぜ」 「はは、杉ちゃんってば凄くはしゃいでキーを叩き続けていたんだよ。本当子どもみたい」 「それを言うなって」  杉崎の幼馴染でもある花咲がクスクスと笑う。この解放感と一体感は海渡の活躍があったからこそ、だが、その中で何人かだけは面白くない顔をしていたり無表情であったりしたが。 「……海渡」  そしてまた一人海渡に近づいてきた少年。転校生の虎島だが、その顔つきは妙に真剣であった。 「海渡、ありがとうな。おかげで助かった……」 「おいおい虎島。そのわりに何か顔が怖いぞ?」  近づいてきた彼に、杉崎が怪訝な顔を見せる。すると虎島は。 「すまん、一つだけ愚痴らせてくれ」 と前置きした後――海渡の肩を掴んで叫んだ。 「何でお前はあの時俺たちのクラスにいなかった! 何で俺たちの側に!」  何かが極まったのか、虎島の目には涙が浮かんでいた。彼は、前大会の優勝者であったが、それはつまり虎島以外が全員死んだということでもあった。 「……虎島」 「お、おい。奴らとの話から予想はつくし、気持ちもわかるが、それを海渡に言っても、その、仕方ないだろう?」  困った顔を見せながらも杉崎が諭すように言う。それはそのとおりでもあった。それに1年前は海渡もまだ普通の高校生であった。助けたくても助けられなかった事情がある。 「悪い。当然わかってた。どうしようもないこともな。海渡悪かったな。気に入らなかったら殴ってくれてもかまわないぜ?」 「そんなことはしないよ」 「はは、本当、いいやつだなお前この野郎!」  そう言って虎島が笑顔を見せ海渡の首に腕を回した。しかしそれはどこか空元気にも思えた。 「……虎島に何があったかまで私にはわからないが。とにかく全てが終わったならもう戻りたいところだが、戻れるのか?」  矢田先生が問う。すると海渡が振り返り皆に確認する。 「大丈夫。俺が戻すよ。皆もういいかな?」 「「「「「「「「勿論!」」」」」」」」  ほぼ全員がそう叫び、異を唱える者もいなかったので、海渡は転移の魔法で全員で日本に帰還した。    だが、大変だったのは当然それからだった。当たり前だが彼らがデスゲームに巻き込まれたことはすぐに知れ渡り、その日だけでも色々な取材の申し出が殺到した。  学校としても何故遠く離れた島にいたはずの彼らが戻ってきていたのかなど、疑問点は多かったようだが、精神的な疲れもあるだろうということで暫く全員学校を休ませるという判断がくだされた。  家に帰った海渡は当然の如く家族から心配され妹からも色々と聞かれた。一応その日は疲れているからということで細かいことは伝えず部屋のベットに横になる。 「そういえば、結局修学旅行がだめになったな……」  デスゲームに巻き込まれたせいで期待していたイベントが台無しになったことだけが心残りの海渡であったが、その日はすぐに眠りにつき――気がついたら女神が目の前にいた。正確には海渡の夢の中に現れた。 「あぁ、夢じゃないねこれ」 「流石勇者様は聡いですね」 「でも、わざわざ夢の中に現れて何かあった?」 「何かあった? じゃありません! もう! もう!」 「うわ、ちょっと――」  何故か女神様が海渡をぽかぽかと殴ってきた。全く痛くないし、なんならその行為が可愛らしくも思える。 「もう! もう! 一体何してるんですか! 異世界の力をあんな大っぴらに使うなんて!」 「ん? あぁ、デスゲームでのことか。もしかして見ていたの?」 「そ、それはまぁ。女神として地球に送り返した勇者様の動向は気になりますからね。でも、あれはやりすぎです! あれでは勇者様の力が世間にバレてしまいますよ!」 「あぁ、なるほど。でも、緊急事態だったしね。何もしないとクラスメートが全員死んじゃうし」 「いや、まぁ、それは、そうですけど。もっと上手くやりようがなかったのですか?」 「遠慮とか自重とか面倒」  海渡が答えると女神がはぁ、とため息をついた。 「もういいです。確かにあの状況なら仕方なかったのでしょうが、女神として流石にこのままにしてはおけません。なのであの事件に関わり海渡様の力を知った人たちの記憶は改変しておきました。これで勇者様が使った力を知るものはもういないでしょう」 「そうか。ありがとう」 「え? そ、それだけですか?」 「それだけだけど?」 「え~と、それはつまり勇者様の功績がほぼなかったことになるということですが?」  女神が窺うようにして聞いてきた。確かに記憶が変わり海渡の力がなかったことになれば、デスゲームから海渡一人で救ってくれたという事実も消えてしまう。 「別にいいよ。褒められたくてやったわけでもないし。でも、そうなると今回の事件はどういう扱いになるの?」  素朴な疑問を海渡は女神にぶつけた。 「流石にただなかったということには出来ないので、勇者様の力で行った行為は別の形に置き換わります。あと、記憶の改変と言っても強く心に残ったことを全てなかったことには出来ないのでこういったことも別な形で塗り替えられることになると思います」 「そっか。ならまぁいっか」 「か、軽いですね……」  海渡のあっさりとした対応に女神は目を点にさせた。 「……ところで、前に俺の報酬が地球に帰るだけでいいか? って女神様は聞いていたけど、あれってまだ報酬をもらえる権利はあったりするの?」  すると海渡がふとそんなことを聞いた。女神は目を丸くさせるが。 「は、はい! 勿論海渡様は異世界を救った英雄ですから。何かあれば……何かあるのですか?」 「う~ん……ま、今はまだわからないから、そのうち頼むかも」 「は、はぁ。そうですか」  頭を掻きつつそう答えた海渡に女神は不思議そうな顔で答える。 「じゃあ、もういいかな?」 「は、はい! でも、今度からは力を使う時はもう少し考えてくださいね」 「まぁ、俺もなにもないのに力を使ったりしないからね」  そして、海渡は女神との対談を終え、今度こそちゃんと眠りにつくのだった――
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