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第十三話 サバイバルロストの終わり
海渡にはわかっていたが次の日からあの事件についての世間の認識は変わっていた。
先ずデスゲームであるサバイバルロストの秘密を暴き、最悪の犯罪組織の壊滅に貢献した立役者は杉崎ということになったのが大きい。
そのためか学校には連日マスコミが殺到し、精神的な影響を踏まえてと休みを貰っていたクラスメートは勿論、杉崎にも取材が殺到した。ここまでくると杉崎もよほど迷惑かと思われたが、彼も中々の世渡り上手であり上手いこと取材に対応していた。
杉崎は自分だけの功績ではないこともしっかりアピールしていたしテレビ出演の依頼が来た後も海渡や虎島に一緒に出ないかと誘いかけた。
海渡のやった行為が別な形に置き換えられたとは言え書き換えられた内容での功績が残ったからだ。とは言え海渡はそれを面倒だと言って断り、虎島も固辞した。
結局杉崎がそれらを一手に引き受け、自らYoiTouhuという視聴者数ナンバーワンの動画投稿サイトにアップし今回のあらましについてユーモアも混じえて話して聞かせたりしていた。もともと口がうまいのであっというまに視聴数は世界1位となりそれについても話題になったりしたが、杉崎はデスゲーム関係者に警告する意味もあると語っていたりする。
杉崎曰く、デスゲームに関わる噂は他にもありサバイバルロストがその全てではないとのことだった。
というわけで、結果的に休みにも関わらず生徒も含めて面倒くさいことになったりしたが、わりと愉しんでいるクラスメートもいたのは確かだ。
やはり誰一人犠牲者がいなかったのが大きいのだろう。そもそもで言えば全員掠り傷一つ負っていないのだから精神的ダメージもそうでもない。
ちなみに、当然だがあの事件に関わった奴らはもれなく逮捕、というべきかはわからないが拿捕された。世界中の軍隊などが集まって捕縛されたのでその後は色々と揉めたようでもある。
しかもその多くが有力者であった為、経済的影響も懸念された。事実一度は株価も急落したが、しかしそれも直に安定した。
これも海渡の力だった。ワールドバランスという魔法がある。これを使用するとたとえ世界が乱れても自然と安定化するのだ。
異世界でも1000年間魔力を溜め続けそれでようやく一度使用できるかどうかと言われていた奇跡の魔法である。しかし海渡ならそれを使用してもちょっと小腹が空く程度の魔力の消費でしか無い。
ちなみに海渡だが、実は今回に関して誰一人殺していない。正確に言えば死んでも一度は再生出来るように魔法で手を打っておいた。再生と言っても瀕死状態でとしているため相当な苦痛は伴うが全員無事は無事である。そして全員にもれなく地獄行きの痣を残しておいた。
今回の件では全ての情報が明るみになった点も注目の的となった。そのため捕縛された連中以外にも多くの著名な人間や権力者がサバイバルロストに関わっていたことが知られてしまった。
しかし当初は捕まっていない連中は関与を否定し、捕まった連中すら騙されていたや本当だとは思っていなかったなどと言い訳がましいことを口にしていた。
だがそれも3日もすれば自ら罪を認め、どうにか死刑にはしないでくれと泣いて乞うようになった。疑惑だけだった連中も次々と罪を告白していった。海渡が残した痣の影響だった。連日連夜精神が地獄に誘われこの世のものとも思えない苦しみを味わわされ、しかも最後には死んだ後には更に苦しい地獄が待っていることを示唆されるのだ。
こんなつらいことはないだろうが、しかし更に日が経てば今度は生きているのが辛いとめそめそとしだした。何を食べても味がせず、優秀な弁護士をつけようにも金がつかえず、しかも今後二度と金を手に入れることができない。あらゆる快楽を感じないが痛みにだけはやたら弱くなっており異常なほどつかれやすくもなっている。
そう、彼らに待っているのは正に生き地獄であり同時に死んだ後に待ちける凄惨な未来であった。
おそらくはそれを恐れて少しでも罪を軽くしようとしているのだろうが、今更後悔しても後の祭りであった。
だが、それも仕方のないことだろう。罪のない命を弄んだ罰なのだから。
さて、一週間ほど過ぎて特別休暇も終わり、生徒たちがぞろぞろとクラスに集まりだした。生徒達は思ったより元気であり、笑顔で何してた~? やデスゲーム大変だったねぇなどとも話し始める。
「うぃーっす皆元気してた?」
「あ、杉崎くん!」
「テレビ見たぜもうスターじゃん!」
「はは、いやぁ照れるぜ。これからは俺の時代? みたいな?」
「もう杉ちゃんってば調子に乗らないの」
そして一躍時の人となった杉崎にも注目は集まった。クラスの皆からも質問攻めにあっている。
海渡や虎島との再会も喜んでくれた。
「か、海渡くん! あの時はありがとう!」
そして海渡に近寄ってきてお礼を言う少女。相変わらず服の上からでも迫力ある双丘を備えた佐藤委員長だった。その隣には佐藤とはタイプの違う美少女である鈴木の姿もある。
「でも、本当あんたも無茶だよね。銃を持った軍曹とかいうのに立ち向かっていくんだから」
「全くだな。杉崎と連携できたから事なきを得たけど、本当その肝っ玉には恐れ入るよ」
「まぁ、無我夢中だったからね」
話の輪に加わってきたのは虎島であった。それに海渡はポリポリと顎を掻きつつ答える。
記憶の改変で確かに海渡が行った常識はずれの行為は全てなかったことにされた。だが、常識の範囲内で海渡の一部の行為は記憶に残されていた。
今回の件、内容的には杉崎が隠し持っていたスマホで先ず島のサーバーをジャックし、爆弾の起爆スイッチも解除した後で、虎島や海渡と協力し軍曹の動きを封じたという形に改変されていたのだ。その上で佐藤委員長のピンチを海渡が身を挺して守ったということにも。
そして同時に海渡は実は空手や合気道を得意としていた、という話にすり替わっている。
そのため魔法などが使えるという記憶はないにしても下手な大人より全然強いという認識にはなっていた。
さて、そんなクラスにもう一人、サバイバルロストの影響を受けた生徒がいるわけだが。
「よ、よぉ。元気してたか?」
「…………」
「おい、お前ら調子どうよ?」
「ね、あっちいこ?」
「うん」
「佐藤、鈴木、正直すま、ぐぇ!」
「話しかけんなこの屑!」
「はは、す、スズちゃん手厳しいね」
話しかけた生徒からシカトされ、謝ろうとした鈴木に金玉を蹴られ蹲ったのは元から色々問題が多かったとされる鮫牙であった。彼は今回のデスゲームを心から喜び、進んで生徒を殺すと言い放ち、あまつさえ佐藤委員長と鈴木を犯すとまで公言していたのである。
当たり前だが、例え海渡に関する記憶が改変されていても、そういったことはなかったことにはならない。
結果的に、鮫牙はクラスから総スカンを喰らうこととなった。
「畜生面白くねぇ……」
ぶつぶつ文句を言う鮫牙だが、その視線が海渡に向けられ、ニヤリと口角を吊り上げた。
「おい海渡! ちょっと飲み物買ってこい!」
そして海渡の席に近づいた鮫牙が彼を見下ろしそんなことを命じ始めた。クラスの皆がギョッとした顔を見せる。
中にはあいつ本気か? などとささやくものもいた。これには女神の記憶改変もある程度関係しているわけだが。
「なんで?」
そして海渡の反応は、とても軽かった。鮫牙がすごんでいるが全く意に介していない。当然といえば当然か。それを見ていたクラスメートもクスクスと笑い声を上げている。
何せ海渡は武術に精通しているという認識を皆が持っている。だからこそ鮫牙にすごまれたところでこの反応は当然だろうと判断したのである。
一方鮫牙はというクラスから頼りにされることとなった海渡を屈服させることが出来れば自分に対する見方も変わり、畏怖し敬うようになるだろうと、そんなあまりに短絡的な考えなのであった。
しかし、海渡は全く鮫牙を恐れておらず早くも彼の計画は頓挫しようとしていた。クラスの皆から笑われその顔も朱色に染まる。
「お、俺が喉かわいたからに決まってんだろうが!」
「そう。なら自分で買いに行けよ。売店は廊下を出て階段を降りた1階にあるぞ?」
海渡は子どもに教えるように鮫牙に応じた。鮫牙がカッとなった様子で海渡の襟首を掴み。
「てめぇ舐めてんのかこ――」
ドスを利かせ襟首を掴んだ鮫牙だったが、海渡の目を見て言葉を失った。眼力がすごすぎて、すっかり呑み込まれてしまったのだ。
「く、くそ、もういい!」
そして結局それ以上何も言えず、掴んでいた手を放し、鮫牙は結局自分で売店にいこうとするが。
「なら、ついでにお茶を頼むよ」
「は、はぁああああぁ?」
海渡がそういってお茶代を差し出した。
当然鮫牙は目を丸くさせ、疑問の声を上げるが。
「おお、丁度良かった。なら俺は缶コーヒー無糖で」
花咲と一緒に彼らに近寄ってきていた杉崎もその話に乗ってきた。
「ちょ、ちょっと待て! ざけんな杉崎! なんてテメェの分まで俺が!」
「どうどう――」
杉崎にまで買い物を頼まれ、当然文句を言う鮫牙だったが、杉崎は片目を閉じ彼を制した後。
「お前、このままじゃ今後誰も話しかけてくれないぞ? クラスから完全に孤立しているしそんな寂しい高校生活嫌だろ? だから海渡は敢えてお前にあんなこと言ったんだよ察してやれ」
「は? 意味わかんねぇよ!」
「だから、ここで反省の色を示すために少しは態度で見せろってことだろ? 普段悪ぶってるお前が自らパシリを買って出れば多少は皆の気持ちにも響くってもんさ」
「な、な……」
「というわけで頼むわ。花咲はワンタのアップルでいいよね?」
「え? で、でも……」
「いいんだって。折角わざわざ鮫牙が買ってきてくれるって言ってんだから」
「お、おい俺はやるなんて!」
「あ、なら俺は紅茶で」
「あたしサイダー」
「烏龍」
「あんぱんと牛乳」
「な! 誰だついでにパンまで頼んだの!」
「俺はタピオカドリンクを頼む」
「て、虎島までどさくさに紛れて、こ、こ、この野郎が畜生ーーーー!」
しかし結局頼まれた分を買いに行く鮫牙であった。ちなみに海渡はそこまで深いことを考えていたのではなく、ただの意趣返しのつもりだったわけだが。
とは言え、それから暫く鮫牙は皆のパシリをさせられる羽目になったという――
◇◆◇
「あいつは危険な奴だ――」
久しぶりにクラスの皆が登校し様々な話題が飛び交う中、その少年は一人ぼそりと呟いた。
切れ長の瞳と、端正な顔立ち、それでいてどことなく近寄りがたい雰囲気を醸し出す少年。
黒瀬 帝、それが彼であった。
彼は恵まれた人間だった。女子では金剛寺グループの社長の娘である玲香がクラスでは有名だが、彼はそれよりも遥かに巨大な黒瀬財閥の御曹司でもある。
だが彼が恵まれているというのは何もそのような裕福な生まれだからというだけではない。彼はあらゆる才能に恵まれた非凡な少年であった。
芸術から音楽、スポーツ、勉強、格闘技、何をやっても彼は完ぺきにこなした。しかも身につけるまでの速さは常人より遥かに早く、一目見ればどんなものでも完璧に覚え、それどころかより良い物へと昇華させた。
彼は完璧だった。勿論炊事洗濯掃除まで全てが完璧だった。犬の散歩にも余念がない。今日も登校前にしっかり愛犬のキングを散歩させてからやってきた。
彼は人生に退屈しきっていた。あらゆることを完璧にこなせてしまう彼には世の中がつまらなく思えて仕方なかった。
そんな最中、あのサバイバルロストに巻き込まれた。だが黒瀬は本質的には鮫牙と変わらなかった。もしかしたらこのゲームであれば退屈しのぎにはなるかもしれないなどと考えてもいた。
だがその目論見はもろくも崩れた。杉崎や虎島、そして海渡の手によって結局何も起きることなくデスゲームが終了したからだ。なんだかんだで黒瀬の存在など空気に近かった。
だが黒瀬は感じ取っていた。確かに皆の記憶こそ改変されたが、黒瀬は本能で海渡がデスゲームに終止符を打った張本人であることを察していた。
危険な男だと直感した。放置してはおけないと判断した。黒瀬という少年は気まぐれな少年でもあった。人生において大事な局面では特殊な硬貨で判断してしまう程に。その硬貨には裏と表に天使と悪魔が刻まれていた。運命のコインと呼ばれる代物だった。
それを普通は天使が出るか否かで判断するが黒瀬は逆だった。基本的に悪魔を重視するのが黒瀬だった。
(悪魔が出たら今ここで海渡を殺す)
黒瀬はそう心で決め、密かにコインを指で弾いた。くるくると回転したコインが黒瀬の手の甲に乗りそれを片方の手で塞ぐ。
そして黒瀬は――コインを隠していた手を放した、出てきたのは天使だった。
「……今日はやめておこう」
こうして黒瀬は今日もまた平穏で退屈な1日を過ごすことになったのだった――
作者より
これにてサバイバルロスト編は終了となります。
サバイバルロスト編を終えた記念にスター特典を公開しました。
この章が終わってからの方が楽しめるかと思ったので必要☆数は少し上げてます。それでは改めてこの先もどうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m
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