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第十四話 墓参り
「ここが、死んでしまった俺のクラスメートが埋まってる墓なんだ」
ある日、海渡と杉崎に幼馴染の花咲、そして佐藤委員長と鈴木は虎島に付き合って彼のクラスメート眠る墓地に来ていた。
最初に誘われたのは海渡だった。虎島は何故かはわからないが、海渡に一度見てもらいたいと思ったんだと語っていた。
そしてその話を聞いていた杉崎を含めた他の面々も同行することになった。自分たちは結果的に助かったが虎島のクラスメートも巻き込まれたということを他人事に思えなかったのだろう。
「きっと俺たち以外にもあのくそったれゲームに参加させられた犠牲者は多くいたんだろうな。だけど、それもこれで終わりだ。なぁ景、俺たちやったんだ。あのクソッタレな連中を全員倒したんだぜ?」
墓前て手を合わせた後、墓を愛おしそうに撫でて虎島が報告する。そのお墓はどうやら虎島にとって特に大切なものなようだった。墓には星彩 景という氏名が刻まれていた。
「虎島、この子はお前の大事な人だったのか?」
「……あぁ、俺は小さい頃に親に捨てられて孤児院で育ってな。その時から一緒だった。やさぐれていた俺に人の心を取り戻させてくれたのは景だった。景だって親に辛い目に合わされた過去が在ったのに、いつも明るくて前向きに生きていたよ」
杉崎が問いかけると懐かしげにそれでいて寂しげに虎島は語った。しんみりとした空気が流れ自然と皆が手を合わせた。勿論海渡もだが。
(やはりあの時言っていたのはこの子のことなんだろうな)
そんなことを心のなかで思ってみたりもした。
「……しかし杉崎、本当に良かったのか?」
「何、いいってことさ。それにデスゲームを理由に稼いだ金だ。それ相応の相手に返すべきだろう?」
そういって杉崎が笑った。杉崎はデスゲームに関する取材や動画配信などで得たお金をほぼ全てサバイバルロストの被害者の為に寄付していた。
これまで運営の手で被害者は泣き寝入りするしかなかったのだが、今回の件で運営やその関係者の悪行が世間に知れ渡ったことで彼らも立ち上がり、被害者の会が結成されたのである。
ちなみに捕まった連中が使えなくなった資産も被害者のために使われることとなっていたりする。
「ま、最新のパソコンぐらいは購入したし、俺だってそこまで善人じゃないってことさ」
そう言って杉崎が笑う。最新のパソコンなんて全体で見ればごく僅かな金額でしかないだろうに、と虎島は笑みを浮かべる。
「今日はつきあわせて悪かったな。近い場所でもないのに」
「ま、丁度三連休だったしな」
「そうそう。それに修学旅行が伸びたからその前のプチ旅行って感じ?」
そう、件の修学旅行だが事件の影響もあり、結局旅行は途中で中止となっていた。そのため日程そのものが先延ばしになったのである。
「でも、また皆と修学旅行にいけそうで良かったよ」
「ふ~ん、そんなこといって花咲は杉崎と一緒に行けるのが嬉しいんじゃないの?」
「ち、違う、そんなんじゃ!」
「え? 違うの? 俺ちょっと傷ついちゃうな」
「ちょ! 杉ちゃんそうじゃなくて」
「はは、冗談冗談」
「も、もう馬鹿馬鹿!」
花咲が杉崎をポカポカと殴る様子を微笑ましげに見ていた虎島であり。
「でも、今度の修学旅行は何もなければいいね」
佐藤委員長がそんな事を言うと、皆の目が点となった。
「いや、それ、フラグじゃね?」
「え? え?」
「委員長。今のは確かにちょっと……」
「えぇえええええ!?」
なにげに口にした一言でそこまで言われると思わなかったのか、佐藤は落ち込むも皆に冗談冗談、と宥められていた。
「さて、宿に行くか」
そして全員でその日宿泊する宿に向かった。そこは随分と高そうなホテルだった。
「ほ、本当にここに泊まっていいの?」
「あぁ、実はオープンしたばかりで人数限定で格安で泊まれるキャンペーンをやってたんだ。応募してみたらそれが当たってな」
「それでこの値段か。しかし豪華ディナー付きで500円って本当安いな」
「それこそ何か裏があったりして」
「もうスズちゃんそういうこといわない」
「今度は鈴木がフラグを立てたか」
「あははゴメンゴメン」
そんなやり取りをしながら6人はホテルに入り受付を済ませた。とても親切な応対をされた上、案内された部屋もとても豪華だった。
食事は専用のレストランで頂いたわけだが、とても豪華でいたれりつくせりであり、ショーもついているとHPには記されていたが確かにちょっとしたショーも楽しむことが出来た。
こうして一時はしんみりするもホテルについてからは有意義な時間を送った一行であったが――
◇◆◇
「う、う~ん、あれ?」
鈴木が目覚めると周囲は随分と薄暗かった。記憶が若干覚束ない。何とか直前の記憶をさかのぼり、自分が仲間たちと虎島の墓参りに付き合い、そして虎島があてたという豪華ホテルにワンコインで泊まることが出来た――そこまでは思い出すことが出来た。
美味しい食事を食べ、ベッドに横になり気持ちよく眠れたはずなのだが――鈴木がいるのは明らかにベッドの上ではなかった。
「ど、どうなってるのよこれ!」
「うぅん、な、なんだこれ!」
「おいおい冗談だろ!」
鈴木が思わず叫ぶと、周囲にいた他の人達も目覚め始めた。どうやら格安で泊まっていた他の宿泊客も集められているようであったが。
「一体どこなんだここは?」
当然だが一緒に泊まっていた他のメンバーも集められていた。虎島が訝しげに呟く。その後は杉崎とその幼馴染の花咲も目を覚ました様子だった。
「俺たちホテルに泊まっていた筈だよな?」
「う、うん、でもここって、違うよね?」
花咲がピタリと杉崎に寄り添い、不安そうに呟く。そして海渡は――寝ていた。
「またこいつ、前もそうだけど本当よく寝れるな」
「中々起きないしな」
杉崎と虎島が呆れ顔を見せる。確かに海渡だけはこの状況で呑気に寝息を立てていた。
「お前ら、目が覚めたならちょっと手伝えよ。出口を探さないと」
すると泊まっていた宿泊客の一人が彼らに命じるように言ってきた。少々傲慢にも感じられるがわけのわからない状況にあい苛立っているのだろう。
ここで揉めても仕方がないので部屋の中を見回す一行だが確かに出口らしきものが見当たらない。窓すら無いし壁もやたらと頑丈そうだ。
そして何より気になったのは部屋の中心に置かれた大きなケースのようなものだ。外側はガラスのようだが中身が全く見えない。叩いてみるがかなり頑丈そうだ。強化ガラスみたいだと杉崎が言った。
そして更に言えば。
「そういえば、委員長がいない!」
そうなのだ。さっきから鈴木が部屋を探しているが佐藤委員長の姿がどこにも見当たらない。
「委員長だけ連れてこられなかったのかな?」
「いや、この状況でそれは考えられない。嫌な予感がするぜ」
「全くだな……」
花咲のセリフに杉崎は答えつつも虎島と眉を顰めた。その時だった。
『やぁやぁ皆さんようこそ我がデスホテルへ。私は当ホテルの死配人でありホテルマスターのDeathです』
そんな癇に障る声が部屋の中に響き渡ったのだった――
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