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第十五話 選ばれた生贄
いつの間にかどこかに連れてこられていた宿泊客と海渡たち。すると突如部屋の中にデスホテルの死配人だと語る男の声が聞こえてきた。
その男は自分をDeath だと名乗った。馬鹿にしているのか? と杉崎や虎島が眉を顰めると周りの宿泊客も騒ぎ始めた。
「お、おい誰だこの野郎!」
「私たちを閉じ込めたのはあんたなの?」
「一体どういうつもりだ!」
声を荒げてDeathとやらに問いただす周りの客たち。だが杉崎たちは冷静にことの成り行きを見守ることにする。
「全く、あんなフラグ建てるんじゃなかったぜ」
杉崎が頭を描きながら後悔めいたことを言った。確かに事前にそれっぽい発言をしてしまったが。
「別に杉崎のせいじゃないさ。しかし、修学旅行に続いてここもかよ」
虎島が肩を竦める。確かにこの手のゲームは一度味わえば十分だ。ましてや虎島はサバイバルロストにも一度参加している。
「おい! さっさとここから出せよ!」
『はっはー! そういうわけにはいかないよ。忘れたのかい? 今回格安で招待されたお前たちには特別なショーが用意されているとそう書いてあったはずだけど?』
虎島は確かにそうだったなと思いだす。だがそれは食事中に見たショーのことかと思っていたわけだが。
「ショーってそんなの食事のときに見たわよ!」
『ノンノンノン、あの程度のショーはただの前座さ。当ホテルのショーはあんなものでは終わらない。皆さんに楽しんでもらうためにとっておきのショーをご用意したのだから』
「とっておきのショーだと?」
『そうさ! まさに刺激たっぷり、心臓もとまるような最高で最強で最狂な豪華デスナイトショー! それを皆さんに楽しんでもらおうと思う』
「さっきから意味がわからない! それと私達と一緒に来ていた委員長が見当たらないんだけど、どこにやったのよ!」
鈴木が荒ぶる声でどこかの誰かを問い詰めようとする。だが、Deathを名乗っていた死配人の笑い声だけが部屋の中にこだました。
『勿論、その子の事は知っているさ。そう、君たちの連れはまさにこのショーの始まりを飾るのにピッタリだったよ。さぁ、では始めるとしよう! ショーターーイム!』
Deathが愉しそうに声を上げると部屋の中心に存在したガラス張りのケースがライトアップされ、さっきまで全く見えなかった中身が顕になった。ケースの中には椅子が設置されていた。そして椅子には鎖で雁字搦めにされた佐藤委員長の姿が。
「そ、そんな、委員長が!」
「なんてこった、委員長が捕まってやがる!」
「そんな、どうしてこんな……」
「いや! 委員長! 委員長!」
委員長を良く知る4人が思い思いの声を上げた。一方で他の客たちからも驚きの声が上がる。
「な、なんで椅子に縛られてるんだ?」
「しかも、頭の上に奇妙な装置があるぞ?」
「大きなフラスコ? 中に液体が入っているみたいだけど……」
委員長は椅子に座らされたまま身動きがとれない状態にあった。猿ぐつわもされ声も出せないようであり、その瞳には涙が浮かんでいた。頭上には巨大なフラスコのような物が設置され、ブクブクと気泡を上げる液体が入っている。
「これはどういうつもりよ! 早く委員長を解放して!」
『ノンノンノン、慌てちゃダメダメ。そんなすぐに解放したらショーとしてもゲームとして面白くないでしょう? 君たちにはこれからたっぷり命をかけたゲームを堪能してもらわないと』
「な、い、命だって!」
「そんなもの掛けたくないわ!」
「そうだ、なんでそんな真似!」
周りの客たちが怒りを顕にする。だが、ケラケラとDeathが笑い。
『今更何を言ってるのかな? 最初からこのホテルにはショーがついていると書いておいたよね? だからこそ本来ありえないほどの格安料金で泊まれたのだから今更文句を言われてもねぇ』
ホテルの死配人がそんなことをいい出した。だがホテル代が安くなる代償が死を伴うゲームでは割が合わなすぎる。
『ま、どうあがいてもここからは普通には出られないのさ。どうしても出たければ君たちは出口を目指す必要がある。もっとも出口に向かう途中にある部屋では必ずゲームをクリアーしてもらう必要があるけどね。そして各部屋のゲームは危険なものばかりだ。ヒリヒリするような命の駆け引きが楽しめるようになっているのさ。さて、先ずは最初のゲームの説明から始めるよ。このゲームは見ての通り。女の子の頭の上でコポコポいっているのは王水さ。浴びれば当然ただではすまない。おっとガラスを壊そうとしても無駄だよ。それはとても頑丈な強化ガラスで人の手じゃ絶対に壊せないし中に一歩でも踏み込めばセンサーが作動して問答無用でその子の頭から王水を』
「大丈夫委員長?」
「あ、あれ? 海渡くんが助けてくれたの?」
「まぁ、そうかな」
『て、ちょっとまてぇええええぇえええええええい!』
死配人であるDeathの絶叫が部屋内に響き渡った。そして得々と語っていた強化ガラスの内側には既に誰もいなかった。
『なになになになに! 何これ何これ! は? え? なんで生贄の女がもう外にいるの? ホワイ?』
「あんたが長々語ってる間に助けた」
「簡単に言うな海渡……」
「いつの間に助けたのかな?」
杉崎が呆れたように口にし、花咲は頭に疑問符を浮かべていた。
「良かったね委員長!」
「う、うん。何か助かっちゃった」
「たまげたなぁ~」
鈴木は嬉しさからか委員長に抱きつき、虎島は目を白黒させている。様子を見ていた宿泊客もざわついているが。
「ところでこれどういう状況?」
「お前なぁ、ずっと寝ているからだぞ? て、あれ? 何かデジャブ?」
杉崎が首を撚る。記憶の改変でサバイバルロストで海渡がひたすら寝ていたことは忘れていた。
「とりあえず簡単に言えば頭のおかしいDeathデスって奴が死のショータイムとやらはを始めたんだ」
『Deathデスじゃない! Deathですよ!』
「だからDeathデスだろ?」
『ちっがーーう!』
「Deathデスね。うん、なんとなくわかった」
虎島からそれだけ聞けば海渡には十分だった。一方で部屋には誰かの歯ぎしりの音が聞こえてきていた。
『ふ、ふざけるな! 強化ガラスだぞ! そう簡単に壊れない強化ガラスをしかも全く傷つけず、一歩でも入ったらセンサーが作動する空間で、一体どうやってその女を助けたってんだ!』
周囲から海渡に視線が集まった。海渡は迷った。どうやってといえば、先ず気配を全く無くして転移魔法で移動する。その後鎖を千切って椅子から委員長を解放してまた転移でもどるという至極単純なものだ。
だがサバイバルロストで力を使ったことに関して女神に色々言われたから、多少はごまかしたほうがいいだろうと海渡は考えているのであり。
「俺、手品が得意なんだ」
「「「「「な~んだ手品か」」」」」
『ちょっとまてぇええええええい!』
苦肉の策で思いついたことを話すと周囲の客はわりとあっさり納得してくれた。Deathは別のようだが。
『手品でなんとかなるわけないだろ! 舐めてんのか!』
「どうでもいいけど、助かったんならもうゲームは終わりってことでいいのか?」
「さっさと帰りたいんだけど」
『お前ら気を抜きすぎだ! 大体忘れたのか! そこには出口なんてもんはないんだよ! 出るにはゲームを一つずつクリアーしていく他、方法はない!』
「出口がないの?」
「あぁ。しかも頑丈な壁に阻まれているようで出るに出られない」
「頑丈な壁?」
虎島に教えられるも、海渡は小首を傾げつつ壁のそばに寄ってコンコンっと壁を叩いてみた。
「壊せば出れるんじゃないこれ?」
『ハッハー! 馬鹿かお前は! いいかい? その壁は軍が正式採用するような特殊な構造で出来ている。核シェルターにも使われるような頑丈な代物だ。人の手で壊せるものじゃ』
――ドゴオォオオオォオォオオオオオン!
だがしかし、海渡がパンチすると派手な轟音が響き、壁に大きな穴があいた。
『ええぇええええええええぇえええ!?』
死配人の絶叫がこだました。目の前にいたなら目玉の一つ二つ飛び出ていそうな程の驚きぶりである。
「壊れたよ」
「お前、とんでもないな……」
「え~とシェルターに採用されている素材なんだよね?」
「よく砕けたなこんなもの……」
「う~ん、でもオリハルコンよりは柔いし」
海渡がそう呟く。オリハルコンとは地球でも神話で知られる金属だが、異世界においても最強の金属として存在していた。滅多に手に入らない希少な金属であり同時にとても頑丈なことでも有名だったのである。
果たしてどのぐらい頑丈かと言えば、オリハルコンと北海道ではどっちが簡単に破壊できるか? と問われれば北海道と即答できるほどに硬いのである。
だが海渡はそのオリハルコンも指で挟むだけで原子レベルで破壊できる強さを持っていた。故にこの程度の壁が破壊できないはずがないのであった。
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