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第三話 忠告と実行
「なら俺から質問だ」
「ほう、鮫牙だね。いいぞ、質問を許そう」
「このゲームは相手を殺すのが目的らしいが、殺す以外の事も含めて何をしてもいいのか?」
「ふむ、というと?」
「奪ったり――女を犯したりだよ」
舌なめずりをして鮫牙が言った。それに特に女子から悲鳴が上がる。
「ちょっと鮫牙! あんた何考えているのよ!」
「は、お前らこそ何言ってやがる。俺たちはもうゲームに参加させられてんだよ。まさかこの状況で仲良く一緒にクリアー目指しましょうとかお花畑なこと思っているのか? あぁん!」
鮫牙が睨みを効かせる。周囲の連中には文句を言えない物もいた。彼の言うことにも一理とあると思っているのだろう。
「いやぁ、良い質問だねぇ。おじさん君みたいなタイプが一番好きだよ。そしてその回答は勿論イエスだ! 島では法律も論理もありはしない。好きに奪い犯し殺すがいいさ!」
「よっしゃーーーー! これだぜ、これこそが俺が望んだ展開だ!」
ガッツポーズで喜ぶ鮫牙への視線が痛い。しかし彼はそんなこと一切お構いなしであり。
「かかっ、ゲームが始まったら佐藤と鈴木お前ら二人は絶対に犯す! さんざん犯してから殺す! あぁ、今から楽しみだぜぇ」
鮫牙は鈴木を見て、その後佐藤のおっぱいを見ながら紅色的な笑みを浮かべた。佐藤委員長が肩を抱き震える。
そんな鮫牙を警戒するように杉崎と虎島が見ていた。そして海渡はまだ寝ていた。
「さて、他に質問は?」
「わ、私を即刻解放しなさい!」
「はぁ?」
立ち上がったのは金色の髪を巻き髪にした見目麗しいいかにもお嬢様といった雰囲気ただよう美少女だった。
「わ、私は金剛寺グループの娘です! あ、貴方だって聞いたことぐらいありますわよね!」
「あぁ、はいはい。確かに聞いたことあるねぇ」
「だったら!」
「だが、それがどうした糞が! このゲームに選ばれた時点で身分なんて関係ないんだよ! ぶっ殺すぞ!」
「ひ、ひぃいいいい!」
軍服男がドスを利かすと金剛寺はヘタリと席に座り込んでしまった。チョロチョロと生暖かいものが椅子を伝って床を汚した。
「おやおや、財閥のご令嬢ともあろう方がお漏らしとはいけませんねぇ」
軍服男が舌なめずりをしていった。金剛寺は恐怖と羞恥心で耳まで真っ赤になり鼻をすすりぐずっている。
「さて、他には何かあるかな?」
「せ、先生、先生はどうしたのよ!」
次に立ち上がったのは佐藤の親友でもある鈴木だった。そう、確かにこの教室には矢田先生の姿がない。
「おっと、そうだったそうだった。私としたことがうっかりしていたよ。よし、なら特別にそこのテレビに映像を映してあげよう。ちなみにこれは特別な回線でつないでいるものだ。電気が来ているわけじゃないから妙な期待を持たないようにね」
軍服男がそういうと、教室に設置されていた液晶テレビの電源が付き、その先に椅子に縛り付けられた半裸の矢田先生の姿があった。どうやら先生はまだ気絶しているようではあるが――
「そ、そんな矢田先生に何をしたの!」
「落ち着きなさい。まだ何もしてないさ。とは言え、先生はこのゲームに直接は参加できないからね。だから、ゲームをやっている間、君たちの代わりにしばらくギャラリーを愉しませて貰う役についてもらう。男か女かでやり方は少々ことなるけど、ま、彼女は美人でスタイルいいし。すぐに殺されることはないと思うよ? 向こうで控えている兵士にとってはご褒美みたいなものだね」
その言葉で先生が何をさせられるのか察した生徒達は表情を暗くさせた。ただ一人を除いてだが。
「くそぉ、俺も先生を犯したかったぜぇ」
それは勿論鮫牙である。下卑た表情で先生の体を食い入るように見続けていた。
「せ、先生を今すぐ解放しなさい! いえ、それだけじゃありません。皆を今すぐ解放してください!」
そんな中、一人の少女が立ち上がり、軍服男に向けて叫んだ。佐藤委員長である。
「お、おい佐藤、やめておけって」
「いえ! やめません!」
杉崎が佐藤を止めようとするが、彼女の正義感に火がついてしまったのだろう。鈴木は心配そうな顔を見せながらも彼女はこういう子だったことを思い出した。佐藤はとても臆病でもあるが、しかし駄目なものは駄目だとしっかり言える子でもある。それ故に余計なトラブルに首を突っ込んでしまうことも多々あったわけだが。
「ば、か、野郎が!」
しかし、ことこの状況においてはあまりに蛮勇が過ぎると虎島が机においた拳を固く握りしめた。
話を聞いている軍服男の笑みが乾いていく。
「わ、わかっているのですか? これは犯罪ですよ!」
「犯罪? カカカッ、君は面白いことを言うねぇ」
「な、何がおかしいのですか! こんなところに勝手に連れてきて、先生にあんなことして、は、恥ずかしくないのですか! こんなことして警察が黙っていませんよ!」
「警察? はっはっは、これは面白い子だ。なるほどなるほど警察ねぇ」
軍服男が頭をぽりぽりと掻くとその笑みを深めた。
「とにかく、今ならまだ間に合います。これ以上罪を重ねない内に」
「ところで、君は私の話を聞いていたかな?」
「え? な、何がですか?」
「うん、だからね……くだらないことを口にするような奴は、殺すって俺は言ったよなぁ!」
「や、ヤメロォオオォオオオ!」
虎島が叫ぶ。目には涙が浮かんでいた。かつて虎島はこのサバイバルロストに巻き込まれた。だがその時はクラスでもリーダー的立場だった虎島が先導しくそったれなゲームを全員で乗り切ろうとやっきになったものだ。だが、その夢は叶わず次第にクラスがバラバラになり最後は大切に思っていた彼女が身を挺して庇い彼を救い、彼女を撃ち殺したクラスメートを怒りに任せて撃ち殺したところでゲームが終了したのだ。
二度とあんな悲しい結末はごめんだった。今度こそ皆を守れる男でいたいとさえ思っていた。だが、その願いは今脆くも崩れ去ろうとしていた。
「す、杉崎くん!」
「クッ、駄目だ今はまだどうしようも……」
すがるような目を向けてくる花咲だったが、杉崎は悔しそうに歯牙を噛み締めた。助けたいのは山々だが今はまだその時ではない。このゲームを始めたクソ野郎どもをあぶり出すためにはそれ相応の準備が必要だった。杉崎にとってデスゲームはある種の仇も一緒だった。
彼の父親はフリーのジャーナリストだった。そしてその父親は常に杉崎に情報の大切さを教えてくれた。だがその父もデスゲームについて調べている内に、失踪しそして数年後に遺体となって発見された。杉崎はデスゲームを運営する連中に殺されたと考えていた。だからこそデスゲームの情報を集め続けていた。そして遂にこのサバイバルロストというデスゲームと出会ってしまった。巻き込まれたクラスメートは冗談じゃないと思うかもしれないが杉崎にとっては仇討ちのチャンスでもあった。だからこそ、ここは動けない。あるいは相手が花咲だったならまた違ったかもしれないが、佐藤の為に今自分の立場を悪くさせることは出来なかった。
「い、いやだ委員長ーーーー!」
鈴木が叫び、疾駆した。その手を伸ばし佐藤を救おうとするも、その距離はあまりに遠い。佐藤は鈴木にとって掛け替えのない親友だった。だから守りたかった、でも守れない。こんな時に正義の味方がいてくれたら、などとありえないことを思う。
軍服男の腰から一丁の拳銃が取り出された。大型の自動拳銃だった。デザートイーグル――拳銃の中でも最高の殺傷力を誇るとされるものであり、込められた弾丸も50AE弾に改良を加え3倍にまで破壊力が強化された50SAE弾である。
この男にとってこの瞬間こそが至極でり、趣味の一つでもあった。彼は毎回サバイバルロストの説明及び進行役としてやってきているが、いつも大体一人はこの女のようにわけのわからない馬鹿なことをほざくものが現れる。そのたびに彼はこのデザートイーグルを抜きその頭蓋を吹き飛ばしてきた。あまりに殺しすぎるとゲームが成立しないが一人ぐらいなら見せしめのために殺すのはありとされており、ゲームが始まる前に殺されるのが誰か? についても賭けの対象となっている程だ。
今回ターゲットになったのは胸に随分と立派なものをぶら下げている少女だった。見た目は地味だが磨けば光るような逸材。正直殺すのは少々もったいなくも思うが仕方がない。
恨むなら無謀にもゲームを非難し、解放しろなどと蛮勇を晒した自らの頭の悪さを恨むのだな。
そう思いつつ、引き金へ掛けられた指に力が込められ、ド派手な銃声が教室内に響き渡った。多くの生徒が思わず目を閉じた。
軍服男にしても、次の瞬間には少女の小さな頭が吹き飛ぶ姿を想像したことだろう。
「――おいおい、こんなもの撃ったら危ないだろう? おっさん、人に銃を向けてはいけませんって、習わなかったのか?」
「……は」
だが、そうはならなかった。何故なら少女は無事であり、そこにはいつの間に少女を守るように立っていた一人の少年、海渡の姿があったのだから――
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