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第四十三話 帰ってきた虎
「突然だが、今日はこれから皆さんに歓迎会を開いてもらいます」
いつもどおり海渡たちが登校しホームルームが始まると、担任の矢田先生がそんなことを言い出した。
「先生何の冗談だよ」
「冗談ではない。本当だ。今日はこれから歓迎会をやれ」
「命令になりましたわ!」
矢田先生が真剣な顔で言った。この顔は本気である。何とクラスに集められた生徒達に矢田は歓迎会をやれという。
「何かデスゲーム風に言ってるけど、普通のことだよね」
「言われてみればそうね」
「でも、歓迎会って誰のなんだろう?」
海渡がさらっと話すと、鈴木もそれもそっか、と肩を竦めた。矢田が珍しく真剣な顔で話すから何事かと思われたようだが、確かに普通のことだ。
しかし問題は佐藤の言うように誰の歓迎会なのかだ。
「ま、1人は見ればすぐにわかる。おい入ってこい」
矢田が呼びかけると教室のドアがガラガラと開かれ、ちょっとばかし懐かしさを覚える彼が入ってきた。
「――よ、よぉ、みんな久しぶりだな」
「キュッ! キュ~!」
教壇の前に立つ男。そう、色々あって幼馴染を迎えに行くという体で休学し異世界に行っていた虎島である。
この久しぶりの再会にざわめく教室だが。
「「「「「「「「その頭の物体はなんだぁあああああぁああ!」」」」」」」」
ほぼ同時に多くの生徒が叫んだ。そう虎島の頭にはまんまるっこい謎の生物が鎮座していた。おかげで折角の再会なのに虎島より頭の上の生物に注目がいってしまった。
「お前らもっと虎島が戻ってきたことに注目しろよ! 確かに頭の上にスライムっぽい何かが乗ってたら虎島がどうでもいいと思うのもわからないでもないけど!」
「先生、別に皆どうでもいいとは言ってなくないですか?」
「キュッ、キュ~♪」
スライムばかりに注目する生徒達に注意する矢田だが、逆に傷ついた気がする虎島だった。そんな虎島の頭の上ではスライムが楽しそうに弾んでいる。
「へっ、よく戻ってきやがったなぁ虎島ぁ。いいぜ、またこの鮫牙様がパシリとして顎でこきつかってやるよ」
「いや、俺は一度たりともお前にこきつかわれたことがないぞ。というか戻ってきて俺に唯一興味をもったのお前かよ……」
ほぼ全員が頭の上のスライムに興味を持っている状況だと、こんなのが相手してくれただけでもちょっとだけ嬉しくなってしまうの悲しいと思う虎島であった。
「虎島、よく戻ってきたな」
「おかえりなさい虎島くん!」
しかしその直後に杉崎と花咲が話しかけてくれたのでホッとする虎島だ。
「それにしても、そのスライム、確かロボットよね? 何かテスト中だったんじゃないの?」
思い出したように鈴木が言う。以前動画で見せてもらったことを覚えていたようだ。
「え? それロボットなの虎島くん!」
「あ、あぁ。AIを搭載したロボットで俺がテストの為持ち歩いているんだ」
興味を持った女子生徒に聞かれ虎島が答えた。前もって準備していたかのような回答である。ちなみに実際は本物のスライムなのだが。
「それで幼馴染の景さんはどうしたの?」
「あ、あぁそれなんだが――」
海渡が質問すると虎島が若干困ったような顔を見せ答えかけるが。
「おまえら~盛り上がるのは結構だが紹介するのはまだまだいるんだぞ。転校生が来ているからな」
「え! 転校生!」
虎島が答える前に、矢田が話を進めた。その結果教室中が急に騒がしくなる。突然の転校生に驚いているのだろう。
「ちなみに転校生は4人いる」
「「「「「「「「4人!?」」」」」」」」
更に教室が騒がしくなった。まさかいきなり4人も生徒が増えるとは思わなかったのだろう。
「おいおい先生。いくら何でも4人は多くないか? 普通はクラスがわかれそうなもんだが」
「勿論当初は校長先生や教頭もそう言っていた。だが1人はこのクラスに入ることがほぼ確定だったんだが、残り3人がその1人と一緒でなければ絶対にやだと聞かなくてな」
ため息交じりに矢田が言う。様子を見るに少し厄介そうな転校生でもある。
「もしかしてその転校生ってとんでもない不良の男子とかですか?」
「不良ではないと思うぞ。あと全員女子だ」
「よっしゃぁああぁああ! 女子キターーーーーーーー!」
矢田が答えると矢島が立ち上がりガッツポーズを取って叫んだ。矢島はここ最近の発言で女子からの好感度は大きく下落している。もはや教室の女子に期待は持てないゆえに転校生ならいけるかもと思っているのだろう。
「けっ、どんな悪かと思えば女子かよ。そんなのの言うことをホイホイ聞くだけとは、学校って奴は大したこと無いな」
1人悪態を突き出したのは鮫牙だった。すると矢田が鮫島に注目し。
「ほう? ならお前なら何とか出来るのか?」
「ハッ、当然よ。俺は老若男女、赤ん坊にだって容赦しねぇワル中のワルだ。転校生が女だろうと関係ねぇ。しっかり俺が礼儀ってやつを教えてやるよ」
「よっ、流石クズ界のパシリ王!」
「流石クズでパシリをやらせたら右に出るものはいない鮫牙だぜ!」
「でもそこが痺れないかっこ悪い!」
「ちょっと待て! クズはともかくパシリ王とかカッコ悪いって何だよゴラァ!」
「いや、クズはいいのかよ」
鮫牙が目をむき出しに怒鳴る。しかしクズは問題ないようだ。
「クズはワルっぽくてかっこいいじゃねぇか。へへっ」
「ワルでもクズって言われれば怒ると思うけど」
海渡が冷静に言葉を返した。確かにクズと言われて喜ぶのはそうはいないだろう。
「とにかく転校生を呼ぶぞ。いいぞ入ってこい」
矢田が呼びかけると再びドアが開き、ゾロゾロと多種多様な4人の女の子が姿を見せた。
「お、おおおおおぉおお! 3人は外国人なのかよ!」
「もうひとりの日本人の子も可愛いぞ凄く清楚だ!」
「黒髪ロングキター! ツインテて赤髪女子キターー! ロリ巨乳キターー! 女騎士キターーー!」
「いやちょっと待て1人明らかにおかしい」
矢島がハイテンションに叫ぶ。だが杉崎は冷静に4人の姿をみて1人だけ明らかに女騎士であることに気がついた。
もっとも写真では見たことがある少女ではあるのだが。
「え~、とりあえず日本人の方は、前に話したサバイバルロストで死んだと思ったら生きていたという漫画みたいな境遇の子だ。虎島の幼馴染だそうだ。あとそっちの騎士のは鎧は脱がない騎士として絶対だ! と頑なに拒むから面倒だから許した」
「ゆる! それでいいのかよ!」
矢田はどことなく面倒くさそうに言った。ちなみに騎士以外は制服を着ている。
すると鮫牙が席を立ち、ノッシノッシと大股歩きで女騎士に近づいていった。
「おうおうおう! お前らか噂の転校生ってのは? どうやら転校初日から調子に乗ってるようだがな。このクラスにこの俺が居る限りそんな勝手はゆるさねぇぜ。とりあえずその妙な騎士は鎧を脱げこら!」
「断る! 鎧と剣は騎士にとって必需品! 脱がぬ! 収めぬ! 着替えはせぬ!」
早速鮫牙がガンを付けながら女騎士に命じたが、相手も全く怯む様子がなく、断固として脱がぬ! という強い意志が言葉に現れていた。
「んだとコラァ! 調子乗ってると殺すぞ、へ?」
鮫牙が更に舌を回し、凄みを利かせるが、殺すと言ったその瞬間、女騎士の剣先が喉に突きつけられる。
「――今、殺すと言ったな?」
「え? お、おう、い、言ったがどうした? こんな玩具の剣で、お、俺がビビるとでも」
「フンッ!」
「「「「「キャ、キャァアアアアァアアア!」
女騎士が剣を振ると、突風と斬撃がクラスを縦断するように駆け抜けた。教室に悲鳴が上がる。鮫牙は横に倒れたことで当たることはなかったが、床に大きな溝が出来て壁にも切り傷が縦にパックリと刻まれていた。
「ひ、ひいいいぃぃいぃいぃいいいいいいい!」
「ほう、いまのを躱すとは中々やるな。だが次は外さないぞ」
鮫牙はさっきまでの威勢がどこにやら、尻もちをついたまま情けない悲鳴を上げ、股からはチョロチョロとズボンを伝って水たまりも出来ていた。
「ちょ、ちょっと待て! な、ななな、何してんだお前!」
「お前は今殺すと言っただろう? ならば当然殺される覚悟もあるということだな?」
「は? あ、頭おかしいんじゃないのかテメェ!」
「問答無用! 今度こそ切る!」
「ひぃいいぃいいいいいい!」
「はいストップ」
「む?」
再び剣を振り上げる女騎士だったが、その動きがピタリと止まった。女騎士が顔を向けた先には景の姿。
「き、キラ、なぜとめる! こいつは我々を殺すと言ってきたのだぞ!」
「え、え~とあのねマックスちゃん。その殺すは意味が違うの、だからその剣はもう下ろしてね」
そんなやりとりをぼーと見ながら、随分と賑やかになったなぁ、とのんきなことを考える海渡である。ちなみに鮫牙が倒れたのは海渡の力によるものだが助けられた本人も気がついていないことだろう――
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