第七話 対策

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第七話 対策

「そんな馬鹿なことがあってたまるか!」  狙撃手がみたままの様子を伝えると大佐が激昂し喚き散らした。狙撃銃から発射される弾丸は音速を超える速度を誇る。そんなものを当たり前だが普通の高校生が反応できるわけがなくしかも弾丸を素手で掴むなんて芸当は非現実的すぎるのである。  尤も音速を超える程度ではそもそも話にならないのだが。海渡は軽々と音速を超え光速さえも超え、次元の領域に軽々と脚を踏み入れる存在ですらあっさりと倒してきた。そんな彼にとっては音速程度止まっているようにしか感じられない。その程度のものなのである。 「しかし、事実弾は当たっておらず少年の手にはこの銃から射撃したライフル弾が握られてました。正直私もわけがわかりませんが、そう考える他ないかと」  大佐は頭を抱えた。だが、ふと何かを思いついたような顔を見せる。 「まさか……日本の公安の奴らが動いているのか?」 「え? こ、公安ですか? しかしいくら公安でもあんな真似……」 「いや、公安の中でも特殊任務専門の部がある。それであればもしかしたら肉体の一部を強化装甲にした奴がいてもそれほどおかしくはない」 「いや、強化装甲なんてSFの世界の話では?」 「違う。強化装甲は一部の国や団体で研究が進み実用レベルまで完成している。それであれば狙撃銃の弾丸を防ぐことも可能かもしれん」  そこまで言った後、口惜しそうに大佐が肩を震わせた。 「なんてこった。まさか学生に紛れて公安を忍び込ませるとは。くそ、こうなっては仕方あるまい。今回のゲームは中止だ。これより殲滅作戦に移行する」 「せ、殲滅ですか……まさかそこまでの事態になるとは……」 「とにかくそうと決まれば急いで準備しろ!」  そして兵たちが慌ただしく動き始めた。大佐はどこかへ無線で連絡をとっている。   「全く馬鹿な連中だ。大人しくゲームに参加していれば一人は生き残れたかもしれないというのに――」    そして狙撃手を務めた男が校舎を眺めながらそんなことを口にした。  一方校舎では軍曹が呆気にとられた顔で海渡の顔を見ていた。何せ彼に向けられた狙撃が全て海渡の手で防がれたのだからそんな顔にもなる。  勿論本来こんな男、助ける道理もないがかといって連中の思い通りになるのも癪だ。それに死ぬより生きている方が辛くなることだってある。そういう意味では実は軍曹はとっくに詰んでいたりする。 「耳に仕込まれていた無線を見せてもらったから、そこから相手の信号をジャックしてメッセージを送ったけど、どうかな?」  海渡が誰にともなく言った。軍曹の耳に無線が仕込まれていたわけだが、それを奪ったのである。 「それを聞かれてもどうしていいかわからないって。大体普通狙撃された弾丸なんて掴めないぜ?」 「そうなのか? 何か軽く掴んでるから最近の高校生はこれぐらい余裕なのかと思ったぞ?」 「矢田先生、現実逃避したくなるのもわかりますが、ありえないし」  矢田先生が普通に生徒に突っ込まれていた。恐らく先生はもはや自分が何を言っているのかよくわかっていないのだろう。 「まぁ、どちらにせよ今は海渡頼みだしな」 「……ふん、お前がいくらすごかろうが今度こそ終わる。恐らくここまできたら作戦が大きく変化している筈だ」 「何だと? 一体どんな作戦だ! さっさと吐け!」  軍曹が不敵に笑うと、虎島が襟首を掴み持ち上げて問い詰めた。 「ふ、ん。俺も詳しいことは知らんさ。何せ今まで一度だって決行されなかった作戦だ。だが、なにをするかはわかる」 「い、一体何をするというのですか?」 「殲滅だよ。仲間はもう容赦しない。ここにいる兵も生徒も校舎もその全てを抹消しに掛かる筈だ」 「な、なんだって? まさか、そんな手荒な真似!」 「う~ん、手荒かはわからないけど、武装したヘリがこっちへ近づいてきてるね」 「な、なんだって!」    弾けたように飛び出し、杉崎と虎島が壁に背をつけ窓の外を覗き見る。 「ば、馬鹿な! あれは最新鋭のタイプ。軍でも使用されていて、ガトリングガンや拡散ミサイルも搭載されている。あいつらもう完全にやる気満々じゃないか!」 「しかも一機だけじゃない、何機もやってきてるぞ!」  杉崎と虎島が交互に叫んだ。確かに重なり合うようなプロペラの音が近づいてきている。 「う~ん、向こうの丘からも随分と物々しいミサイルランチャーが用意されたようだね」 「ま、まじかよ……」  ここまでくると最早ちょっとした戦争である。 「はは、これで終わりか。校舎ごと焦土に変わり果て全員死ぬ」 「そ、そんな、海渡! 何とかならないの?」 「無茶言うな。いくら海渡でも……」 「あぁそれなら大丈夫。もう対策したから」 「「「「「「「「は?」」」」」」」」  その答えに周囲にいた多くの生徒が声を揃える。その直後だった。先ず空に控えていた武装ヘリの部隊から一斉にミサイルが発射される。数十発のミサイルだ。一発一発がとんでもない威力を秘めた兵器であり、そんなものが飛んできたらこんな廃校など一溜まりもない。ここにいる全員が一瞬で消し飛ぶだろう、とそう思われたが―― 「おいおい冗談だろ……」    虎島が自らの目を疑った。それほどまでの光景であった。  何せ飛んできたミサイルが学校に届く前になにかに遮られ爆発していくのである。しかもその爆発音もかなり抑えられており衝撃も全く届かない。 「海渡くん、一体何をしたの?」 「障壁を張ったんだよ。バリアーと言った方がわかりやすいかな?」 「「「「「「「「バリアーーーー!?」」」」」」」」  クラスメート達が絶叫した。まさかバリアーなんてものが実在するとは思っていなかったのだろう。  武装ヘリだけではなく、丘の上に設置された自走式多連装ロケット砲からも次々とミサイルが打ち込まれるが全く障壁は通さず校舎に届く様子が感じられない。   「障壁を張ったから音を完全にシャットダウンしても良かったけど一応ミサイルが来てるってことは知っておいた方がいいものね」  なんてこともないようにそんなことを口にする海渡にクラスメート全員が唖然としていた。 「本当無茶苦茶な奴ね……」  さすがの矢田先生も、どうやら海渡のこの行為には驚いたようだが同時に呆れているようでもあった。 「だが、このまま相手にやられっぱなしというのも癪だな」  虎島の言うように武装ヘリはミサイルが切れた後もガトリングガンを撃ち続け、丘からのミサイル攻撃も続いている。ナパーム弾の使用すらも行使してきたが、そんなものでは海渡の障壁は破れない。異世界では帝国の竜騎士団が総出で掛かってきて竜のブレスや炎弾を何万何百万と放ってきても全く壊れなかった魔法の障壁だ。ちなみに一般的なドラゴンの放つ炎でも横浜規模を軽く焦土に出来る威力がある。  ナパーム弾はそれでも多量の酸素が奪われ普通であれは窒息する恐れもあるが、障壁の中では酸素が奪われることがない上、海渡が魔法で障壁内の酸素を常に満たしているため全く問題がない。  だが障壁はあくまで障壁。これ自体に攻撃力はそなわっていない。本来ならばだが。 「なら返そうかな。オーバートレイダー」  海渡が魔法を行使した。途端に不可視の障壁から衝撃が放たれミサイル攻撃を仕掛けてきていた武装ヘリも丘の上に設置されていた多連装ミサイル砲もその全てが一瞬にして破壊された。    オーバートレイダーは反撃の魔法である。本来は肉体に受けたダメージを跳ね返すが、対象を障壁にすることも可能。  それによって海渡の張った障壁が受けたダメージを何倍にも増幅させて跳ね返すことが可能であり、つまり連中は自分たちが行った攻撃が原因でやられたことになるわけだ。 「おいおい瞬殺かよ……」  虎島が呆れた顔で言った。杉崎もあまりのことに頭を押さえ、生徒たちも言葉を失っていた。 「さて、ちょっと行ってくるかな」 「え? 行ってくるってどこに?」  ぽつりと呟く海渡に佐藤委員長が尋ねる。すると海渡が顔を彼女に向け。 「ちょっとお話をしにね」  そう言い残した直後その場から霧のように消えたのだった。
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