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プロローグ
修学旅行を3日後に控えたある時、伊勢 海渡は女神のいる天界にいた。女神が言うには異世界を救える素質を持つものを探していたようだ。
かなり困っているらしく何とか異世界を救って欲しいと頼み込まれた。女神は美人だったし、海渡は必死に頼み込むぐらい困ってるなら仕方ないかなと異世界に渡った。
それから10年が過ぎ海渡は異世界の危機を救い勇者となった。海渡のおかげで異世界は平和になり、そこで再び海渡は女神に呼び出された。
女神は言った、世界を救った貴方の願いを何でも一つ叶えると。
なら元の世界に帰して欲しい、それが海渡の願いだった。女神は意外に思ったのか再確認してきた。どうやら他の世界の神などに聞くと、一度異世界に渡った地球人は基本的に異世界に移住する道を選ぶらしい。異世界で恋人ができたり王になったりそういったことがあって元の世界に戻る気がなくなることが多いというのだ。
しかし海渡には元の世界に家族もいる。元の話では海渡がいない間も地球では何も問題が置きないようにしてくれると言っていたから話を受けたのだ。それがなければ受けたかは微妙だった。修学旅行にも行っておきたい。
『わかりました。ただ、一度戻るともうこちらの世界には戻れません。女神の力でも理由もないのにそうそう他の世界の人間を召喚したりはできないのです。それでも宜しいですか?』
『かまわない。頼む』
『わかりました……それにしても既に神言もペラペラですね』
女神は海渡の力にかなり驚いていた。神言は神のみに許された言語であり普通は人間が理解できるものではないのである。勿論当初は女神が海渡に合わせた言語で喋っていたのだが。
『色々頑張ったから』
『頑張ってどうにかなるものでもないのですが……とにかくわかりました。では貴方を元の世界にお戻しします』
こうして海渡は10年ぶりに実家に戻ることが出来た。
驚いたことに異世界では10年たちすっかり大人の肉体になっていた筈なのに、鏡を見るとあの頃の高校生の自分と同じ姿の海渡が立っていた。
「おお、凄いな。俺が立っているよ」
まじまじと鏡を見ながら海渡は、他人が聞いたら、何言ってるんだこいつ? と思いそうなことを独りごちた。
とは言え、10年ぶりに戻ってきた自分の部屋に感慨深い物も感じる海渡である。
ふと時計を見る。デジタル時計の秒数はあれから、つまり女神の下に召喚された時に目にした時刻から10秒しか経っていなかった。ちなみに海渡の記憶力はいい方だ。
10年が10秒か、なんてことを思っていると部屋のドアがノックされ。
「お兄ちゃん、借りてた本返しに来たんだけど」
「うん? その声は菜乃華なのか?」
「え? そ、そうだけど?」
「おお! 何か久しぶりだなぁ」
「は?」
ドアを開け、妹の姿を見ながら感動の声を上げる海渡だが、菜乃華は怪訝そうに小首をかしげた。
「うん、あまり変わってないな。相変わらず胸が小さい」
「喧嘩売ってるの?」
ピキッと額に青筋を浮かべながら菜乃華が言った。どうやら怒らせてしまったようだ。
「怒るなって。それに胸はともかく容姿は可愛いと思うぞ。異世界の姫にも引けを取らない」
「ふぇ!?」
今度は驚いた顔になり、顔が朱色に染まっていく。左右で纏めたツインテールの髪がピコピコと上下していた。
「はは、まるで獣人の耳みたいだ」
「獣人って、それに姫とか、お兄ちゃんちょっとラノベの読み過ぎじゃないの?」
「え? あ、あぁそうかな?」
怪訝そうな顔を浮かべる妹に、ごまかすように頭を掻く海渡。言われて見れば少々異世界のことを持ち込みすぎたような気がする。
「全く。はい、これ借りてた本」
「うん? おお、盾の賢者か懐かしいな」
「いや、懐かしいって……お兄ちゃんからこないだ借りたばっかりなんだけど……」
「そうだったか? いや、そうか」
手渡された本に懐かしさを覚えた海渡だが、当然妹にはその理由がわからず、おかしなものを見るような目を向けられてしまった。
「もしかして調子悪いの? もうすぐ修学旅行なんだから、体調管理はしっかりしないと」
「あぁ、そうだな。気をつけるよ」
体調に関しては全く問題ないが、10年ぶりだからとあまり変なことは言わないように気をつけないとな、と改めて思い直す。
「じゃあ、戻るね」
「あ、その前に、俺、どこか変わったところとかあるか?」
「は? ねぇ本当に大丈夫?」
「いや、だからほら、体調かおかしかったら不味いだろ? だからちょっと良く見てみてくれよ」
「その言動が既におかしいと思うんだけど、て、よ、よく見るの?」
「そう、ほら、どうだ?」
体を捻ったりしながら菜乃華の意見を聞いてみる海渡であり、そんな兄の肉体を頬を染めながら見ている妹。
「触ってもいいから、ちょっと良く見てみて」
「さ、触ってって、も、もう……あれ?」
顔を更に赤くさせながら菜乃華がペタペタと海渡に触れる、と、その表情に変化が現れた。
「どうだ?」
「う~ん、少し、というか大分? 逞しくなった? 何か、アスリートみたいな体になってない? え? もしかして部活でも始めてたの?」
そう言われて改めて海渡も自分の体にふれてみる。顔は若々しさを取り戻していたし、鏡でパッと見る分には特に変化がないと思っていたが、確かに妹に言われ自分でも触れてみると付くべきところにしっかり筋肉が付いていた。
「おお、腹筋もバキバキだ」
「わ、本当だ凄い」
そう言いながら菜乃華が海渡の腹筋に触れるもすぐに、ハッ! とした顔になって手を放した。
「も、もう何やらせるのよ馬鹿! そんなに鍛えた体を見せつけたかったの?」
「え? あ、あぁそうだな。そうなんだ」
「もう、馬鹿なんだから……とにかく、気をつけてね!」
そして妹は早足で自分の部屋に戻っていった。
ちょっと不審がられたかな? と頬を描きつつ部屋に戻りベットに寝っ転がる。
改めて自分の体の変化に考えを寄せる海渡であったが。
『海渡さん聞こえますか?』
『うん? この声、女神か?』
『はいそうです。良かった、繋がった』
女神の声は直接頭の中に響いてきた。これは異世界で覚えた念話という能力である。
『てっきりもう俺とは関わらないのかと思った』
『そんな寂しいこと……あ、いえ、確かにあまり関わると越権行為になってしまうのですが、どうしても伝えておかないといけないことがあって』
『伝えておきたいこと?』
『はい。実は海渡さんを地球に戻した時、時間はほとんど過ぎていない状態で肉体的にも転生前に近い状態に戻ったと思うのですが』
『あぁ、助かったよ』
『はい。ただ一点。確かに見た目は転生前と殆ど変わってませんが、異世界で培ってきた10年間の成果がなしになったわけじゃないんです』
『ん? というと?』
『はい。端的に言うと例え姿は戻っても貴方の力は元のままです。それゆえに肉体にも多少の変化はあったとおもうのですが』
『腹筋がバキバキになってた』
『え! 腹筋が、み、みてみたいかも……』
『ん? 何か言ったか?』
『あ、いえ! とにかく、力はそのままですから、日常生活には十分気をつけてくださいね。何せ海渡さんは異世界で最強の勇者になられた御方なのですから』
『あぁ、そういうことか。わかったありがとう』
『はい、ではこれで。その、もし何か気になることがあったら、いつでも念話、え? 仕事、ちょっと待って今大事な――』
そこで女神の念話は切れた。最後に何か言いかけたようだが、きっと忙しいからこれ以上は話しかけてくることはない、という内容だったのだろうと海渡は解釈した。
そして、ここから再び海渡の日常が幕を開けたのだが――
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