第一話 修学旅行

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第一話 修学旅行

 こうして海渡は久しぶりに戻った地球で再び学生生活を送ることとなった。最初のうちは奇妙な反応を見せてしまったことでクラスメートにも不思議がられたが、それも2日も経てば慣れてしまい、いつもの海渡に戻っていった。    そして、いよいよ10年を経ていけることになった修学旅行の日がやってきた。 「全員いるな。よしバスへ適当にのれ~」 「適当にって……」 「先生が一番適当だよな」 「矢田先生は美人でスタイルもいいのに、教師としては残念なんだよな~」 「矢島は昼食なしと」 「わ、ご、ごめんなさい嘘です!」  そんなやりとりをしながらぞろぞろとバスに乗っていくが。 「虎島くん大丈夫?」 「……何がだ?」 「え~と、何か怖い顔していたから――」 「え? そうだったか? 悪いな。ちょっと緊張しただけだ」  海渡の目の前でそんなやり取りがあった。話していたのは委員長の佐藤と、最近(と言っても海渡からすれば既に10年過ぎているが)転校してきた虎島だった。  虎島は年齢は彼らより一つ上だが、一年前に大怪我を負いまともに授業に参加できなかった為、留年したらしい。  長身で筋骨隆々な肉体をしている男だった。見た目もワイルドで高校生とは思えない大人びた容姿をしている。基本無口でありクラスではわりと浮いていたが、本人もあまり積極的には他人と関わりたくない様子だった。  尤も委員長はよく話しかけていたと思う。  今も虎島の表情の変化に気づくなどよく見ているなと思った。  そんな虎島だが、海渡から見ても確かに表情は険しかったように思える。緊張とはまた何か違う気がしたが―― 「おらお前らとっとと行けや! 後が支えているだろうがボケッ!」  突如暴言が背後から飛び込んできた。怒鳴り散らしていたのは髪をリーゼントにした切れ長の瞳を持つ男子だった。鮫牙(こうが)という男子生徒であり、所謂不良やヤンキーと呼ばれる存在だ。素行不良で度々問題を起こしており警察の厄介にもなったことがある。 「ちょっと鮫牙くん、みんな順番に乗っているんだし」 「知るかボケェ! テメェも委員長ならさっさと乗せろや! お前はデカいおっぱいしか取り柄がないのか揉むぞコラァ!」 「ヒッ!」  鮫牙が吠えると佐藤委員長が肩を震わせた。ただでさえ顔が怖い上に声も大きいのである。佐藤委員長はどんなときでも悪いものは悪いと言える気丈な性格の持ち主でもあるがやはり怖いものは怖いのだろう。 「ちょっと委員長をいじめたらこの私が許さないんだからね!」 「ちょスズちゃん……」  すると佐藤委員長を抱き寄せるようにして一人の活発そうな少女が声を上げた。どうやら委員長が鮫牙に怒鳴られているのを見て列から飛び出して駆け寄ってきたようだ。  少女は鈴木といい、故に愛称はスズちゃんなのである。ショートカットでボーイッシュな彼女は運動神経抜群で水泳部のエースでもある。委員長とは昔から仲がいいようだ。 「あん? いじめるだぁ? そうか、お前この俺様にいじめて欲しいのか? いいぜ、だったらその体にたっぷり教えてやるよ!」 「な、あんたばっかじゃないの! 誰もそんなこと言ってないでしょう!」 「そんなもん言わなくてもわかんだよ。俺みたいな強者にはな。さぁどっちから甚振って欲しいんだ言ってみろ!」 「その辺にしておけ。口ばかり威勢が良くてもかっこ悪いだけだぞ?」  滾った顔で佐藤と鈴木に言い寄る鮫牙に虎島が噛み付いた。 「アァン!? どういう意味だ虎島ァ!」 「何だ耳が悪いのか? 言葉どおりのつもりだが?」 「気に食わねぇな。転校生の癖によぉ!」  互いの視線が交わりバチバチとした一触即発の雰囲気を醸し出す。 「青春だねぇ」 「ちょ! 海渡くん何を呑気な……」  その様子を達観した目で見ていたのは海渡であった。佐藤委員長が顔をひきつらせて彼を見てくるが、海渡からしてみたらこの程度のいざこざはおままごとみたいなものでなんとも微笑ましい。 「おいお前達いい加減にしておけよ。喧嘩はご法度だ。やるなら私の目の届かないところでやれ!」 「目の届かないところならいいのかよ……」  流石にもう放っておけなかったのか矢田先生が二人を注意した。鮫牙もチッ、と一旦は鉾を下ろすが終始虎島を睨み続けていた。  そうこうしている内に列は進み全員がバスに乗り込み先生が点呼をとった後、バスが発車した。 「杉崎くん何見てるの?」 「あぁ、ちょっと修学旅行に関する都市伝説を見ていたのさ」  バスが揺れる中、持ち込んだタブレット端末を眺める杉崎にクラスメートの女子たちが訪ねた。  杉崎はサッカー部のエースでもありイケメンとあって女子にもてる。 「杉ちゃんそういうの好きだよね」 「男はみんなミステリアスなものに惹かれるのさ」  杉ちゃんと呼んだのは彼の幼馴染でもある花咲だ。おかっぱ頭で前髪パッツンな美少女である。 「どんなミステリーなの?」 「あぁ、何でも修学旅行のバスで毎年必ず一台は行方不明になっているとかで、その理由がデスゲームに巻き込まれたからなんだとさ」 「えぇやだこわ~い」 「その時は杉崎くんが助けてね!」 「勿論さベイベ~女の子を助けるのが俺たち男子(ナイト)の役目さ」  おどけたように言うと周りの女子から黄色い悲鳴が飛び交った。そんな彼を呆れたように見ている花咲でもあるが。 「……デスゲームか――」  ふと、虎島がそんなことを呟く。 「はは、デスゲームか。おもしれぇ、是非とも巻き込まれて見たいもんだな。そうすれば好き勝手暴れまくれる!」  鮫牙が一人鼻息を荒くさせた。この少年の性格ならきっとデスゲームが始まったなら意気揚々と殺し合いを始めることだろう。 「グ~グ~zzz」  そんな中、既に海渡は席で寝息を立てて鼻提灯をこさえていた。 「海渡の奴もう寝てるぞ」 「はや! バスが動き始めたばかりだぞ」 「全く随分と修学旅行を楽しみにしていたみたいなんだけどな」 「そうそう、あ~でも何か海渡しばらくおかしくなかった?」 「そういえば久しぶりだな~とか凄い笑顔で言われたな俺」 「別に長い休みがあったわけでもないのにね」  バスの中はしばらくそんな話で盛り上がっていた。確かに海渡は久しぶりの学校生活とあって少し浮かれ気味だったのかもしれない。尤もそれはすぐに落ち着いたが。 「あれ? 何か、俺も眠くなってきたな」 「俺もだ、海渡の眠気が移ったかな?」 「杉崎くん、私もなんだか――」 「お、おい花咲、あ、あれ?」  それは突然のことだった。車内の生徒達が次々と眠りについていき、担任である矢田先生でさえもすっかり船を漕ぎ始めていた。 「しまった! これは、くそ! 奴らここにまで!」 「奴らだって、お、おい虎島、一体何が、くっ、駄目だねむ、お、おい運転手! バスを止め――」  杉崎が吠える。だがしかし、彼らを振り向いた運転手の顔にはガスマスクが装着されていた。それを見て、杉崎もこの異様な状況に気が付き。 「くそぉ、また、かよ――」 「まさか、これが噂の――」  そして最後まで抗おうとしていた杉崎と虎島もついに眠りに落ちることとなる。 ◇◆◇ 「う、う~ん、あれ? ここは?」 「杉ちゃん! 良かった気がついたんだね!」  杉崎が目を開くと心配そうに覗き込んでくる花咲の顔があった。その大きな瞳に一瞬ドキッとする杉崎だったが、直前に起きたことを思い出しハッと目を見開いた。 「花咲! 無事か! クラスの皆は!」 「ふん、一応皆無事みたいだぜ。一体何がなんだかわかんねぇけどなクソが!」  杉崎の問いに答えたのは鮫牙だった。改めて周囲の状況に目を凝らす。見たところどうやらどこかの教室に全員座らされているようだった。眠っている間にでも運び込まれたのだろう。照明もなく薄暗い。壁もボロボロでカビ臭さが充満している。少なくとも普通に授業として使われているような物ではないだろう。廃校と言った方がしっくりくる作りだ。  鮫牙の言うように確かに生徒は全員無事なようだった。だが、先生の姿が見当たらない。そして海渡は未だ呑気に眠っていた。 「どうなってるんだこれは。しかも、この首輪はなんだ?」  杉崎は花咲の首についていた首輪に気がついた。チョーカーというアクセサリーは存在するが少なくとも花咲はそんなものは身につけていなかったし杉崎の首にも巻かれていた。 「俺たちの首にもついてるんだよ」 「しかも固くて、取ろうとしても中々」 「馬鹿やめろ! 無理に取ろうとするな!」  生徒の一人が首輪に手を掛け、無理やり外そうとしていると、虎島が怒鳴りその行為をやめさせた。 「おい、どういうことだ? お前、何か知っているのか?」 「ぐごぉ~ぐごぉ~」 「……それは――」 「ぐ~すぴぃ~」 「「てかいつまで寝てんだ海渡は!」」  この状況でもいまだ寝息を立てている海渡に杉崎と虎島がほぼ同時に叫んだ。緊張感のなさに呆れるばかりである。  その時だった、前方の教室のドアがガラガラと開かれ、厳しい顔をした男がズカズカと教室に入ってきた。異様な男だった。軍服を身に纏い、顔中は何が原因かは知らないが傷だらけだ。ただ現れただけで異様な圧も感じる。  そんな男が教壇の上に立ち、開口一番笑顔で叫んだ。 「ようこそ諸君! おめでとう君たちはサバイバルロストのプレイヤーとして選ばれた! さぁ、これからクラスで仲良く殺し合いを始めてもらおうか――」
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