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5年後
『ゆきおー!』
もう日が暮れようとするなか、私は半泣きで末の弟の名前を呼んだ。
『まだ見つからんの?』
幼なじみのやえ子が心配そうに声をかけてきた。
『うん…私、洗濯してて…
ゆきが居ないのに気が付かなくて……』
『泣かんで、私も一緒に探すよ。』
『…ごめん…』
ただの迷子なら、こんなに不安にはならない
けど最近は様子が違う。
最近この村には不気味な事が頻発している。
『はる。』
林の奥から声がした。
『流!…………って、ゆき!?』
『林の奥の柿の木の下で寝てたよ。』
流におんぶされ、すやすやと眠る弟を見て
思わずその場にへたっと座り込んだ。
『良かったねぇ!はるちゃん!』
やえ子が背中をさすった。
『うん……良かった……ほんとに……』
『さすが流!どうやって見つけたの?』
『前に、ゆきが林の奥で柿の木を見つけたって言ってたから。もしかしたらって。』
確かにそんな事言ってた。
でも家事と薬草取りに忙しくて、たいして聞いて無かった。
『はる、帰ろ。』
流が手をさしだしてきた。
おっきな手。
掴むと少しごつごつしてる。
あの日
川で握った時より、随分大きくなった。
『やえ子ちゃんも気をつけて帰って。』
『うん!ありがとう、流。』
やえ子は満面の笑みで手を振って、帰って行った。
『流、ごめんね。』
『何が?』
前を歩く流の背中は大きい。
背の高さなんか、大人と同じくらい。
流がこの村に来てから5年。
『いつも助けてもらっちゃって。
流は村の人達の手伝いで疲れてるのに…
私なんか子守りもろくに出来なくて……』
『………………………。』
『?』
流の足が止まった。
『俺の命を助けてくれたのは、はるだよ。
だから、はるの為ならなんでもする。』
にこりと笑って、そう言った。
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