村の厄災

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最初は漁師の茂雄さん。 数日後にはまた1人、また1人と… 働き盛りの大人の男ばかり。 最初は熊かなにかの仕業と見ていたが 近頃では 『鬼だ!』 『鬼の祟りだ!俺たち村人を根こそぎ殺す気だ!』 『復讐なんだ!』 と、騒ぎだしたのだ。 『流は、鬼の仕業だと思う?』 雨なので、畑仕事も洗濯も出来ず 納屋で籠を編みながら 同じく草履を編む流に聞いた。 『そもそも、鬼ってなに? 何故そんなに怖がってるの?』 『もしかして、流は知らないの?桃太郎の話。』 『桃太郎?』 確かに流がここに来てから昔話をすることもなかったもんね。 『この村はね 昔、鬼ヶ島に住む鬼に苦しめられてたらしいの。 ある日、川で洗濯をしてたら大きな桃が流れてきて。その桃を手にした老夫婦が桃を切り分けると、中から赤ちゃんが出てきてね 大事に育てたら、とても強い男の子に成長して 犬、猿、雉を従えて鬼ヶ島に乗り込んで 鬼を倒してくれたって話。』 『その人が桃太郎なんだ。』 『そう。』 『その人はその後どうしたの?』 『え?変なこと聞くのね。 家に帰ってきて、幸せに暮らした。 めでたし、めでたし。』 『なら、その人にまた鬼を退治して貰えばいいのに。』 『なに言ってるの。昔話って言ったでしょ?』 『なら子孫は?』 『…………………………。』 確かに。 『……桃太郎はね、鬼退治から帰ってきて数日で 自殺してしまったのよ。』 『母さま!』 母さまが、お茶を持って納屋に入ってきた。 『精が出ますね。少し休憩しなさい。』 『母さま!寝てないと!』 『大丈夫よ。今日は調子がいいの。』 『奥様、ここは冷えますのでこちらに。』 流が火鉢のそばに母さまを座らせた。 『それで……あぁ、桃太郎様の話でしたね?』 『なぜ自殺を?せっかく鬼を倒したのに。』 『……さぁ?何故かしら? なんでも自分の頭部をひたすら殴り付けたあと 山の崖から落ちたそうで。 亡骸を見せるのは忍びないほどだったそうで すぐに埋葬してしまったそうよ。』 英雄の意外な最後に、ちょっと驚いた。 『流、あなた、本当に器用なのね。』 母さまが流の作った草履を手に取り、しげしげと眺めながら言った。 確かに。 私の籠とはだいぶ差のある出来映えだ。 『この間は川の水を引く方法を指南してくれたお陰で、ずいぶん暮らしが良くなったと みな感謝していましたよ。』 『恐れ入ります。』 『……そういえば、流。 あなたも川から流されてきたのですね。』 まだ記憶は戻りませんか?』 『……はい。』 流はどこから流されてきたのか 自分の名前すら覚えていなかった。 だから、思い出すまでのつなぎとして『流』と名付けたのだ。 『このまま、ずっとこの村に居てくれたら… そうね、はると所帯をもつなんてどう?』 『な、なにを言ってるのよ!母さま!』 『そんな事を言っていると、すぐに他の子にとられてしまいますよ? 流は村の人気者ですもの。 ふふふ、流はまるで桃太郎様みたいね。』 『もう!休んで下さい!お体に障ります!』 『はいはい。』 ほほほ、と笑って納屋を出ていった。 『桃太郎様みたいかぁ。』 流がポツリと呟いた。 『俺も……頭を潰して死ぬのかなぁ。』 『何言ってるのよ。馬鹿。』
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