目撃

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『あら?流は?』 家に帰ると、母さまが夕げの支度をしていた。 『テツさんの手伝い頼まれちゃって。 先に帰って来ちゃった。』 『あらまぁ、大変ねぇ。 帰って来たら、夕食を運んでおあげ。』 『はい。』 流は食事などは私達一家と共にするが 寝床だけは、使わない納屋を改築した小屋に一人で寝る。 すっかり夜になり、みんなが寝入ったころ、流の小屋の方で物音が聞こえた。 こんなに遅くまで手伝い……? もしかして…やえ子と居たんじゃ…… 『……。』 さっと起き上がり、握り飯の乗ったお盆を持って 流の小屋に向かった。 『流?帰ったの? お腹すいてない?握り飯持ってきたけど……』 『…………………。』 返事がないが、人の気配はする。 『流?』 『………う………うぅ…………』 うめき声? 『流?入るわよ!?』 慌てて小屋に入ると 頭をおさえてうずくまる流を見つけた。 『どうしたの!?』 『………は……はる……今日……ごめ……』 真っ青で苦しそうな顔 額には汗が滲んでいた。 『どうしたの!?頭!?頭が痛いのね!? 今お医者さまを………』 立ち上がろうとすると、すぐに手首を掴まれた。 『……大丈夫……しばらくすれば……落ち着く……』 『駄目よ!離して!』 『行かないで………はる……』 流の悲しそうな瞳を見ると 私は到底、手を振り払うことは出来なかった。 『とりあえず布団のところまで行こう。』 流は大人しく私の肩に体重を預けて立ち上がり ゆっくり布団に横になった。 『じゃあお医者さまを……』 『医者はいやだ。』 子供か。 『じゃあせめて、薬草を煎じて来てあげるから。』 『そばに居て。はる。』 『こ、子供じゃないんだから…………きゃっ!』 不意打ちで腕を引っ張られ、すっぽりと抱き締められる形で横になった。 『ちょっ……流!怒るわよ!離しなさい!』 『薬草なんか要らないから。 少しだけこうしてたい。だめ?』 だめ、なんて言えるわけないじゃない。 『………なんで……そんな事を言うのよ………』 私の事なんて、関係無いって 言ったくせに…… 『………もう、俺にはそんなに時間が残ってないみたいだ………』 え? どういう意味? しばらくすると耳元から流の寝息が聞こえてきた。
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