海の記憶

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 海岸で小さな瓶を拾った。中には手紙のようなものが入っている。蓋を開けて中身を出してみると、それは複数枚の写真だった。その中の一枚だけ、裏に几帳面な文字がびっしり並んでいた。  『この手紙を受け取ったということは、僕はもう海に沈んでいるということでしょう。…ボトルメールを流したきっかけをお話しします。乱文で申し訳ありませんが読んでもらえると幸いです。  中に入っている12枚の写真はある女性に感化されて撮ったものです。彼女は僕に、この島は人の手で作られたこと、いつか海に還ることを教えてくれました。だから思い出を切り取ろうと、彼女は提案し僕はそれに頷きました。  彼女はこの町の人間らしく短命でした。この写真は、生きている彼女を最後に写したもので、遺影のつもりで撮りました。  彼女が亡くなってすぐ、この町に警報が発令されました。この島国にいた権力者は皆、警報が出される前に逃げました。  僕たちに脱出する術はありません。教会に行き祈りを唱えるものもいれば、最愛の人と寄り添う方もいます。僕だけが夢中で写真を撮っていました。  この町は島の中央の隆起した部分にあります。まだ時間はあるとはいえ、もうダメでしょう。  だから、あなたに託します。  難しいことではありません。ただこの島や町があったことを覚えてくれるだけで充分です。そして、これを見てあなたが何気ない日常を大切に出来るよう、祈っています。ここまで読んでくれてありがとうございました。  それでは、お先に失礼します。』  私はそっとため息を吐いた。なぜ私に託すのだろう。一枚の写真が、私の過去を立証していた。電気屋のテレビでニュースを観ている人達。その規則正しく並んだ画面は私の顔で埋められていた。
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