第三話 金色の魔法

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 あの時と変わらない屋上の公園。藤棚の下に……居た! 嬉しくなって駆けだす。ともさんは足音に気付いたのかサッと立ち上がった。あれ? 背が高くて逞しくなった? しかも黒髪短髪? カラ-リングした? 「あの、違ってたらすみません。東条真彩さん、ですか?」  その人は緊張したように私に話しかけた。  「はい」と、訳が分からないのに頷いてしまったのは、彼の鳶色の瞳がともさんにとてもよく似ていたから。 「俺、沢渡要。ともの孫です。ここにいたら、小柄で可愛い子に会えるよ、て言われて。……あ、何言ってんだろ、俺。あの、すみません、突然」  ペコリと頭を下げる。白いポロシャツに浅葱色のデニムパンツ。端正な顔立ちも、ともさんによく似ている。良く見たら、首から大きくて高そうなカメラをさげて大切そうに両手で包み込んでいる。 「いいえ……」  遠回しに可愛いと言われて、見え透いたお世辞でも嬉しくなるけれど、反応に困る。 「俺、写真部なんです。それで、マジックアワーの空を背景に、モデルになってくれる女の子を探していて。ばあちゃん……いえ、祖母に真彩さんなら引き受けてくれるかもだよ、て言われて。祖母は、ここのビルのオーナーなんですけど……嫌だな、何言ってるんだろ、すみません、突然に、ホント」  この人、こんなにイケメンなのに何だか純真そう。もしかしたら、女の子に慣れてないのかな? 何だか妙に親しみを感じた。ともさんの正体も分かったし。 「いいえ。良かったら、一緒にゴールデンアワーを見ましょう。もうすぐ始まりますよね」  と、私は笑顔で応じた。不思議だ、初対面なのに、自然に言葉が流れる。 「はい! 是非!」  私たちは、隣り合って座った。彼は少し照れた感じで、嬉しそうな反応をしてくれた。男の子から好意的な反応して貰えるのなんて、生まれて初めてだ! あれ? でも、写真のモデル、て言ってた……よね? もしかしてからかわれている? 「写真のモデル、ですか?」  美形に舞い上がり過ぎて、空耳だったのかもしれない。 「はい、あの、ただ自然な格好でいてくれたら良くて……」  いやいや、こんながモデル? 悪い冗談でしょ。途端にムッときた。妹目当て? 「妹ならモデル並にスタイル良くて美少女だし……」 「あなたが良いんです!」 「へっ?」  本気? もしやこの彼、デブ専……てヤツ? 「日の出前の数十分も、マジックアワーで。ブルーアワーって呼ばれてるんです」  彼は言った。あら? 少し、頬が赤い? 「光に映える、色の白くて、マシュマロみたいにフワフワで。目が大きくて目力があって、その、可愛らしい子を探していて……」  目が大きい、とはよく言われるけど……見たところ、からかっているようには見えない。じゃなくてか。悪い気はしなかった。やっぱり、人を欺すようには見えない。 「ブルーアワー……」  と、自然に言葉が出ていた。彼と見てみたい、そう思った。彼はどんな写真を撮るのだろう?  不意に、金色の夕日が私たちを包み込んだ。ともさんは本当に魔法使いかもしれない。それは、金色の魔女。 「一緒に、見ませんか?」  彼は照れ臭そうに私を見つめた。彼も、私も、垂れ下がる緑の藤の蔓も。庭も、金色の光に溶け込んだ。きっと、今の私たちは光に包み込まれた一枚の写真だ。  彼の事、これからゆっくり知っていけたら良いな。 「はい。そして次は、あなたの写真を見てみたいです」  そう答える私に、彼の口元が穏やかな弧を描いた。 【完】
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