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第三話 金色の魔法
「ほら、そろそろ魔法の時間だよ!」
ともさんの声で、現実に返った。
「うわぁ、綺麗!」
思わず声を上げた。いつの間にかお日様は大きなオレンジ色の光源になって空一面を輝かせている。
「いいかい、ここからお日様とその周辺の空から目を離すんじゃないよ!」
ともさんの言葉に素直に頷いた。それから夕日は金色の光の翼を広げ、更にピンクの光の翼を。そして透き通るような藤色の光の翼を。幾重にも渡って空全体に広げ始めた。息を呑んでその美しさに見惚れる。そして更に、クリアブルーの光の羽と共に金色の光の翼をバサリと広げた。まさに自然が染め上げる空の絵画、芸術作品だ。それは一つとして同じ色に染まらない、湿度、天候、太陽で微妙に変化する。
「わぁ……」
ピンク、オレンジ、藤色、青色の光の翼が混じり合い、更に眩いほどの黄金の光の翼が、空全体にベールをかけるように広がる。ともさんも、私も、庭園も、金網の柵も光の翼に呑み込まれたようにして金色に染まった。
「これが、魔法……」
「あぁ、そうさ。金色の魔法。誰でも魔法使いになれる時間帯なのさ。しかも、二度と同じ色合いには染まらない。こうして壮大な大自然のパノラマを見てると、人間の存在なんてちっぽけなものだと思えて来るだろう? 悩み事も、大きな視点から冷静に捉えられる。自然は人間に媚びないけど、その姿から色んな事が学び取れる」
光が穏やかになり、やがて紫色と藍色の透き通った光の翼が空に重ねられ、金色の太陽は藍色の空に溶けていった。
ともさんは言った。
「これはマジックアワーといってね。誰でも神秘的に美しく写真が撮れる時間帯なんだよ。今なんかだとSNSなんかでこの時間帯はの写真をあげてる子も結構いるみたいだね。日の入り前後にドラマチックかつファンタスティックに金色の光がかって、様々な色に染まる空。ゴールデンアワーともいってね、撮影用語なんだ。生きていると色んな事があるけれど、この景色を見るとまた頑張ろうと思える。都会の空も、なかなかだろ?」
そう言っておばあさんは笑った。私もつられて笑った。いつの間にか心が軽くなって。なんだか、もう一度頑張ってみよう。別に何度失敗してもいいじゃん。そう思えるようになっていた。
「私はちょくちょくここに来ていてね。お気に入りの場所なんだ。晴れた日は大抵ここにいるから、真彩ちゃんも気が向いたらまたここに来るといい」
そう言ったともさんは、すっかり藍色の夜のベールに包み込まれ初めていた。パンジーも、藤棚も、サツキや薔薇も、透明の青い翼に溶け込んで……。
不思議な時間だった。本当に、金色の魔法が使われたような……。
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