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僕は普段、自分の着用する衣服だとか食べ物だとか、そういうものに美麗を好まぬ性質(たち)であって、であればあのような透かしの模様などは必要ないのだ。必要はないのだが、美術館というもっとも不要の贅沢の館の中においてはそれは、僕に似合いのように思われた。
僕はあの模様がいったい何を模しているのか、いまだに理解していなかった。植物かなにかのようではあったが、考えても考えても杳として判ぜぬ。まあ柄などなんでもよいのだ。とにかくあれの行方が今は気がかりだ。
あれをどこかに挟み込んだまま返却してしまったりしてはことだ。そうなればもう二度とあれは手元に戻らないだろう。そう思うとすうっと冷たいものが臓をかける気配がした。
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