おたずね

1/7
前へ
/7ページ
次へ
 少し寂しい午睡から一人目醒めて、僕は文庫本に手を伸ばした。もう何度も繰り返し読んだ本である。芥川龍之介「或阿呆の一生・侏儒の言葉」この中に一編の小さな作品があって、題を「夢」というのだが、なんだか妙に読みたくなってしまったわけだ。  おそらく彼の小説の中ではさほど有名でないそれを読み終え、ふと、喉の乾きを覚えて宙をみる。  読書している時に茶を飲むのが好きなもので、家の中には常時数種類の茶葉がある。桂華烏龍にしようかなどと思いついて、席を立つ。いや、立とうとした。しまったあれがないではないか。  僕のみだれた机の上のいつもの場所にあれがない。失くして困るものでもないが、こうなっては気がかりだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加