びりり、びりり。

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びりり、びりり。

「うん、もう少し首傾けて。……そうそう、さすが友里加(ゆりか)、よくわかってる」  私はベッドの上、下着姿でポーズを撮る。誰かに見せるわけでもない、私達だけの秘密の儀式。首を傾け、胸を強調するように突き出し、唇には三日月型の笑みを浮かべて。そんな私の姿を、彼は何度もシャッターを切って撮影する。コンテストに出すわけでもなければ商売をするためでもない――ただ、写真を撮ることによって“私”という芸術を完成させるために。  彼の手によって私は一枚の写真となり、別次元の存在へと生まれ変わるのだ。朝人(あさと)と出会う前は、写真なんて誰が撮影しても同じでしょと思っていた。――彼が私をモデルに写真を撮り、自宅で現像したそれを見せてくれるまでは。  彼は生粋の芸術家だ。そして誰よりも私を愛し、私をさらに美しい存在へと昇華してくれる存在でもある。君という芸術を、永遠に進化させ続けたい――会社の同僚だった私に、彼はそう言って想いを告げて来たのだった。フラれ直後で、もう男なんて信じられないと思っていた私に、その痛々しいほど甘い文句がどれほど強く響いたことか。 「相変わらず、拘るのね。四十手前の女の写真なんか撮って、そんなに楽しいの?そろそろ、自分の身体にも自信なくなってきちゃったところなんだけど」  意識して妖艶な笑みを作れば、彼は“とんでもない!”と叫んでカメラから顔を上げた。 「四十手前?その身体を見て一体誰がそんなことを思うよ?君は幾つになっても綺麗だ。もう付き合って四年になるけど、一向に衰える気配なんかない。むしろ、年々磨きがかかっているように感じるよ」 「もう、お世辞が上手いんだから」 「本当のこと言っているのに。君という芸術を写した写真を、他の誰かに見せてやれないのが勿体無いよ。ああ、でも誰かに見せたら、みんなが君の虜になってしまう。それは嫌だな、ずっと友里加は僕だけのものでいて欲しいから」  ごめんね、重いかな?なんて。彼はまるで初々しい少女のようなことを言う。そんな年下の彼があまりにも可愛らしくて、私はつい心臓の奥をきゅんとさせてしまうのだ。  独占欲が強いのは、お互い様だ。だからこそ私達は、心も身体も相性抜群なのである。毎日電話をするのは当たり前、キスをするのも当たり前。仕事が忙しくなければ毎日、何回だってベッドの上で愛し合いたい。私を誰より好きでいてくれるのも、認めてくれるのも、そして一番美しくしてくれるのも彼だけだ。彼に写真を撮られることは、いわばセックスの一部に近いものがあった。――彼が撮影するのはいつだって、彼が心から愛しているものだけだと知っているのだから。 「それでさ。もし、友里加が嫌じゃなかったら、なんだけど」  そして彼は、少し頬を染めて告げるのだ。 「今日はもっと、踏み込んだものを撮ってみたい」 「踏み込んだもの?」 「君が一番、美しい姿。……君が乱れるところを写真に収めたいって言ったら、怒る?どうしても恥ずかしいとか、嫌だっていうなら無理強いしないけど……」  何を求めているのかはすぐに分かった。何度も肌を重ね、お互いの奥底まで求め合った中である。初めての時、私がとても臆病になっていたことを彼はよく覚えていたらしい。それは私が彼よりずっと年上で、自分の身体に自信がなかったこと以上に――己の性欲の強さを理解していたからに他ならない。  ようは、声も大きいしあまりにも貪欲。若い彼に引かれてしまわないか不安で仕方なかったのである。幸いにして、私が乱れ切った姿をけして彼は否定しなかった。それどころか、“想像していた以上に綺麗だったよ”と絶賛してくれたのである。私がずっと“恥ずかしい”“みっともない”と思っていた姿を、彼は誰よりも深く愛し、認めてくれたのだ。それがどれほど私に自信をくれ、喜びを与えてくれたかわかるだろうか。  今時はリベンジポルノという言葉もあるし、恋人同士であってもセクシャルな写真を撮るのはあまりオススメしない、なんてことを言う人もいる。でも、私は違う。二人が離れるなんてことは有り得ない。浮気など絶対にない。私達は心も身体も、誰より強い絆で結ばれている。お互いなくして呼吸もできないと確信しているほどだ。ならば――彼を疑う理由が、一体何処にあるというのだろう? 「……あんまり、照明を明るくしたりしないでね。恥ずかしいから」  そう言って私は、最後に纏っていた布地を自らの手で取り去った。OKだと、そう伝える意図を込めて。
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