第01 入学式

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第01 入学式

2130年以降、在り来りな話かも知れないが、その時代はやって来た。 第三次世界大戦、地球の温暖化により、地表面積は減少、男女比は2:8【1:4】と言う時代だ。 此の状況に、日本政府は男子の高校進学受験を廃止、割り当てられた学校へ強制入学すると言う法改正が出来ている。 同時に結婚も、特別な手続きを取れば、16歳で可能と成っている。 男子としては、ある意味絶望的な状況だ、社会に出ても女性中心の世界、昔とは逆に成っている。 そして今年、高校1年として桜峰学園に入学する事に成った。 秋本誠司【あきもとせいじ】、基本的に女子は好きでも嫌いでも無い、趣味は特に無い、成績も普通、簡単に言えば、只々普通の青年だ。 此れから入学する学園の娘達には申し訳無いと思うが、特別気に入られる要素も無いし、自分でも自覚している。 一つだけ救いなのは、全寮制で有ると言う事位だ、実家から通っていたら片道2時間の無駄な時間を過ごす所だった。 入学式は3日後、俺は寮に入居した。 「こんにちは~」 「はいはい、いらっしゃい」 寮長さんだろうか、人の良さそうな感じが笑顔に滲み出ている。 「秋本誠司と言います、今年からお世話に成ります」 寮長さんは、両手を叩き嬉しそうに言った。 「聞いてますよ、うちの学園もラッキーね」 「どう言う事ですか?」 「過去3年間、男子の入学が無かった物だから、殆どの娘達は男性を知らないまま卒業して行ったわ」 「そうなんですか・・・」 まぁ、今の世の中それが当たり前だし、仕方が無いのだろう。 実際、小学校から今日まで数知れずの女子から告白は受けて来た。 リア充に成る事は無かった、どうしても将来の保険の為に、告白を受けてる気がして成らなかったからである。 出来る事なら自分で好きな人を探したい、そう思うのは男女同じだと思うのだが、世の中は違うらしい。 少子化も進み、女性は子供を出産するごとに可成りの報奨金が貰えるとも聞く。 男性としては、不公平に感じてもしょうが無いだろう。 「どうしたのかしら? 部屋へ案内するから上がって頂戴」 不思議そうに聞いてくる寮長に、俺は我に帰ったのである。 「はい」 「貴方の部屋は、2階の一番奥、角部屋の良い所よ」 「有難う御座います」 少し得意気に話す寮長さんから、俺は寮の裏口用鍵を受け取り、部屋へと入った。 結構大きな建物だ、机に置かれてる案内図を見る限りでは、学園の敷地内と通販で全てが揃う様だ。 此れから、3年間此処で暮らす事に成るのか、女子の中に放り込まれるのは怖いけど、我慢して生きて行くしか無い。 入学式と言う物はどうして、皆話が長いのだろうか、ハッキリ言って退屈だ。 「最後に、今年は男子生徒が入学しましたので、ご紹介します」 「秋本誠司君、壇上へお願いします」 マジかよ、良い晒者に成るじゃないか! 断る事も出来る訳無く仕方無しに席を立ち、壇上へ向かう。 「ヤッター、私達ラッキーね」 「実は私、男性って初めて見るのよね」 「ああ、私とお付き合いしてくれないかな」 「その前に、同じクラスに成る事を、祈った方が良いと思うわ」 う~ん、過剰評価の嵐だな、特別な期待をされても困るんだよな。 「え~ 秋本誠司です、3年間宜しくお願いします」 「それでは、生徒会から誠司君にいくつかの質問をさせて頂きます」 なんだろう~、公開の取り調べみたいな雰囲気だ、しかし生徒会長は綺麗だ、例えるなら聖女様? 本の挿絵に出て来る様な感じの綺麗な方だ。 「誠司君の好きな食べ物は何ですか?」 「カレーと肉じゃがです」 「趣味は有りますか?」 「特に無いですけど、ゲームなどが好きです」 「好きな女性のタイプは有りますか?」 「優しく、明るい娘が好きです」 「子供を作る気は有りますか?」 「は? は、はい」 「質問は以上です、生徒の皆さん、誠司君の好みは理解出来たと思います、是非頑張って下さい」 「因みに、私も頑張ります!」 最後だけやたらと気合の入った口調だったけど、何を頑張るのだろうか。 やっと尋問から開放された気分だが、男って何処でもこんな扱いなのか? 大体、結婚やら子作りとか言うのは、社会に出てから考えれば良いんじゃ無いかなと思うのは、俺だけだろうか? 「誠司君、何組なの?」 「えっと、A組だったかな」 「わぁ、同じだよ、私は白石美穂【しらいしみほ】、宜しくね」 「こちらこそ」 隣の彼女は可愛い笑顔を見せてくれた、長い綺麗な黒髪に少し頬を赤く染めてる娘、早くも友達が出来た様だ。 只、母さんの話では、簡単に女性の言葉を信じては行けないと言っていたからな。 隙は見せない様に、しないと行けないだろう。 「誠司君? 式終わったよ」 「あ、ゴメン」 俺は慌てて席を立ち、熱い視線を浴びる中、1年A組の教室を目指した。 1年A組、生徒は俺を入れて15名、1学年全体で45名。 此れも少子化の影響だと教わっている。 「皆さん、初めまして担任の瀬川百合子です」 「此の組はラッキーだな、男子が入って来たぞ」 俺以外の生徒がザワメキ注目を浴びている。 そんなに大袈裟な事なのだろうか、俺には今一理解が出来ない。 「此の学校の校則は、男子への扱いが厳しいから、気をつけて励めよ」 「秋本も何か困った事が有れば直ぐに言う様に、先生が守ってやるからな」 完全な大人の女性、強く頼りに成りそうな感じの担任で良かった。 「はい、有難う御座います」 「先生~」 「何だ?」 「先生も、誠司君を狙ってるのですか?」 俺としては、その質問の意味が分からない、年の差を考えて言っているのだろうか、しかし口調からすると、冗談ぽくも聞こえる。 「ノーコメントだ!」 いやいや、真顔で言っているが、そこは狙って無いとか、興味無いと答える所ではないだろうか。 それぞれの自己紹介が始まった、特に気に成る娘は居なかったが、式の途中で話しかけてくれた娘とは、仲良くして行きたいと思う。 「今日は此れで終了だ、秋本は職員室へ来る様にな」 「はい」 俺は、すれ違う娘全てから注目を浴びながら、職員室を目指した、慣れるまで恥ずかしいのは中学の時と一緒だなと、覚悟は決めている。 「失礼します、秋本誠司です」 予想してたけど、教師も女性ばかりだ。 「秋本、こっちだ」 「はい、遅くなりまして済みません」 職員室でも注目を浴びてる中、瀬川先生は俺を諭す様に言った。 「気にする事ないさ、秋本、お前にいくつか伝えて置きたい事が有る」 「何でしょうか?」 「此れから3年間、お前が良いと思った娘だけで良い、女性としての快感を教えてやってくれ」 「どう言う事でしょうか?」 「言葉の通りだ、心や体、社会に出ても子作りへ向けて行ける様に、耐性を付けてやって欲しい」 「はぁ、出来る限り努力します」 何を望んでいるのかが分からないが、担任が真剣に言ってる以上は、良い答えを返さないと行けないと思う、しかし最初の印象から、かけ離れて行く感が半端ないのも事実だ。 「頼んだぞ、何か質問はあるか?」 「此の学園全体で、男性は何人位居るのですか?」 「お前だけだよ」 「そうなんですか」 「教師も女性しか居ないしな、結婚が決まった者は辞めて行くから、若い者ばかり残ってる」 「余談だが、私は未だに処女だぞ」 得意気に言っているが、この先生は生徒に対して恥ずかしく無いのだろうか、心配に成ってくるな。 「そうですか、頑張って下さい」 「では、3年間宜しくな」 「はい、失礼します」 何だか想像してた生活と違うな、男性の耐性って何をすれば良いのかサッパリ分から無い。 「誠司君」 入学式で隣にいた娘が、少し俯いて話し掛けて来た。 「白石さん」 「美穂で良いよ」 「それなら、俺の事も誠司で構わないよ」 「分かった、誠司」 笑顔に成る彼女、釣られて俺も笑顔に成る、きっと明るくて良い娘なんだろう。 「所でどうしたの?」 「折角、知り合えたのだから一緒に帰りたいなと思ってね」 「待っててくれたんだね、有難う」 俺と美穂は玄関へ向かい歩き始めた、すれ違う娘の視線が痛くも感じるが、一番気に成るのは美穂だ。 真っ赤な顔をして、俯いたまま歩いている、先程の元気は何処へ行ったのだろう。 「誠司、私ね男の人と会うの初めてなの」 「え? お父さんとかは?」 「居ないわ、元々そういう形で母は出産したからね」 そうなのか、瀬川先生の言っていた事が、少し分かって来た気がする。 美穂は勇気を振り絞って、誠司に言った。 「誠司、お願い私と仲良くして!」 「勿論、構わないよ」 「母からも言われてるの、男の人と知り合ったら、全力でアタックしなさいとね」 う~ん、仲良くしての使い方が間違ってる様な気もするけど、可愛い娘だし、友達として接すれば良いかな。 それにしても、世の中はもっと男が増えるべきだと思う。
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