第二章

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「起きてください」ぼやっとしていたハルは、四郎に肩を大きく揺さぶられてようやく目を開けた。 立っていた真莉愛さんが「みんなごめんなさいね、こんなに遅くまで」と申し訳なさそうに微笑みながら言った。その声で、自分が置かれていた状況を思い出したのか、寝起きで頭が回っていなかった和真がハッとしたように大きく目を見開いてお姉さんの方を向いた。「雅人は、無事ですかっ!」 「疲れが主な原因だとおもうから、お医者さんも安心してくださいって」そういって笑った真莉愛さんに、和真と朝陽は「良かった」と胸を撫で下ろした。アキラはほっとしたように顔を上げたが、何も言わなかった。 お姉さんは少し瞳を曇らせた。「最近は仕事も一層厳しくて、睡眠とか食事とかもおろそかになっていたのかもしれないし・・・」お姉さんの声がだんだんと小さくなっていった。五人は何も言わなかった。というよりかは、何と言えばよいのか分からなかった。しばらくの間、コチコチという秒針の音だけが、静まり返った二階に響き渡っていた。 朝陽がゆっくりと、座っていた長椅子から腰を上げた。「とにかく危険な病気とかじゃなくて良かったです」眉を下げて、励ますように笑いかけた。「電話、ありがとうございました」 「いいえ。本当にごめんね、みんな。明日も早いんじゃないの?」 「いえ、全然大丈夫ですので」和真はできるだけ爽やかな声を心がけて言った。「こちらこそ、こんな状況にも関わらずのほほんと寝てしまって、」気まずそうに顔を見合わせた。 真莉愛さんは、心配しないでと言って五人に微笑みかけた。こんな状況でも、自分たちに謝罪や心配の声をかけてくれる親友の姉に、和真は頭を下げた。「お姉さんも、本当にお疲れ様です」和真に続いて、立っていた四郎と朝陽、座っていたハル、そしてアキラも頭を下げた。 「困ったときは、本当に何でも言ってください」眼鏡の青年は精一杯優しく言った。「雅人のためです。僕たちでよければ全力で力になりますので」 その言葉に、真莉愛さんは微笑んだ。「ありがとう。」 座っていたハルとアキラも立ち上がり、脱いでいたコートを羽織った。時計を確認して四郎が言う。「では、今日はもう遅いので」 「お姉さんは?」ダウンコートの襟を直しながら、朝陽が聞くと「私は荷物を病室に取りに帰るから、大丈夫よ」そう言って真莉愛さんは、五人をエレベーターのドアまで送った。ポーンと音が鳴って「二階です」と言うアナウンスと共に重たそうなドアが開いた。 四郎が先に乗り込み、開けるのボタンを押して後の四人を待った。 「またお見舞い来ますね」朝陽がそう言って、最後にエレベーターに乗り込んだ。 またもやポーンと音がする。「ドアが閉まります」と言うアナウンスと共に、手を振ったお姉さんが重たい扉の向こうへ消えてしまった。ドアが閉まる直前に、朝陽はトレンチコートを羽織ったその女性の顔から、笑顔が消えたのを見た。 ゆっくりとエレベーターが下がっていく。五人はみんな目を合わせるのを避けるかように、黙ってそれぞれ別々の方向を向いていた。
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