ルイス・メレンデス『いちじくとパンのある静物』

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ルイス・メレンデス『いちじくとパンのある静物』

  姉とパン食べ放題のランチに来た。ウチと姉の家は車で1時間ぐらいの距離なので、たまにあってお互いの近況報告のような、グチのような、相談のような、まあ言ってみれば気のおけない女同士の話をしている。  ここのランチはパンが常時12種類が食べ放題で、その他季節のパンがいくらか用意されている。焼きたてのパンができると鐘が鳴らされて「ロールパン焼きあがりました」と大きな声で声をかけてくれて、また焼きたてのパンのイーストの甘い匂いが店中に広がる。この匂いを嗅ぐだけで、お金を払う価値があると思うのだが、もちろんランチなのでパンだけじゃく私は「ハンバーグとミネストローネ」のセットと姉は「ビーフシチュー」のセットを頼んだ。  「ここのさあ、制服って可愛いよね。フリルの付いた白いシャツと青いチェックのスカートでタイの色も青だし、50年代っぽくていい感じ」  姉が忙しそうにフロアを動きまわるウェイトレスを目で追いかける。確かに昔のアメリカ映画を見てるようで、思わず頬をゆるめてしまう。 「恵美は今のパート先、どう?スーパーだよね」 「うん、制服はあるけどこんなに可愛くない。白のポロシャツに黒のエプロンだから。地味なんだよね。別にいいけど」  スーパーのバイトは嫌いじゃない。2年ぐらいいるけど、仲のいいパートさんもできたし、何より安いものをゲットするチャンスが増えた。家計を預かるものとしては、1円2円の節約が大事なんだなって思う。 「あっちの方もまだやってんの?」  そう言ってお姉ちゃんは右手を上げ、なにかを描く真似をした。 「うん、時間があるときにチョコチョコ描いて、ネットで売ってる。そっちの方はあんまりお金にならないけど、でも売れたらチョー嬉しいよ」  油絵を描いてフリマサイトで売ってる。うまくないし人気のある図柄、動物や子供とかはめったに描かないので、あまり売れない。こっちはお金目的じゃなくて、自分が好きなものを好きなように描きたい。  でも絵の売り上げは家計費とは別に、将来生まれてくるだろう子供のための貯金用に別にしてある。習い事、一緒に絵の教室に通ってもいいかな。 「お姉ちゃん、ユリちゃんとトモキどう?ちゃんと学校行ってる?」  ユリちゃんが小学4年生でトモくんが一年生だったはず。 「うん、まあね。ユリは真面目だから。トモキも行ってるのは行ってるけど、私がやいやい言わないと、宿題も本読みもしないし、プリントもランドセルに突っ込んだままだし、ほんとに男の子はどうして、あんなのなんだろうね」  お姉ちゃんが、ガックリとこうべを垂れる。そうなんだ、トモくん。ヤンチャなんだ。
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