ルイス・メレンデス『いちじくとパンのある静物』

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 カラン、カラン、鐘が鳴った。なにが焼き上がったのだろう?姉と一緒に見に行く。「米粉のパンが焼きあがりました」白衣を着たオーブン係のお姉さんが焼きたてのパンを藤製のカゴに入れてくれる。姉と私は二切れずつ、皿にとりわけ自席に戻った。  「すごーい。湯気が出てる。焼きたて、熱々だね!」  私はテンションが上がって、思わず一口で半切れぐらい食べてしまった。 「うーんっ!うんまっ!うんまっ!お姉ちゃんも食べなよ。ちょー美味しいよ。めっちゃモチモチしてて!」  姉はすぐにはかぶりつかず、のんびりとポーションのバターをバターナイフを使って丁寧に塗っている。そんなことは。どうでもいいから、かぶりついたらいいのに、そう思った。冷めちゃうじゃん。  お姉ちゃんはゆっくりと端っこを3分の一ぐらい食べた。 「美味しいね。確かにモチモチしてる。あったかくて甘い。バターの塩味がよく合うよ」  私も真似してバターをつけて食べてみる。美味しいっ。やっぱり出来立てのパンは最高だ。   大きなガラス窓の向こうをみる。あまり人が歩いていない。住宅街と大きな街道の中間、一本筋を入ったところにある店なので、歩行者が少ないのだろうか。それともお昼時でみんな、ご飯を食べているのだろうか。今日は日が照っていて、暖かい。これからまだまだ日差しがキツくなるのだろう。しっかり紫外線対策もしなきゃすぐに焼けてしまう。ふう。 「恵美のところは、子供はどうなのよ」  お姉ちゃんは物言いがストレートだ。そこがまたいいところなのだけれど。いまさら変に気を使われても、こちらがどうリアクションしていいかわかならない。 「もちろん、欲しいし、頑張ってはいるんだけど、お姉ちゃんところみたいに、そうポンポンできるわけでもなく、まあ…なんと言いますか、いつかはなんとかなると思っているわけで…」  私だって、欲しいんだよ。そりゃもう、もう何年も思っているのに。 「一回検査してみたら。恵美も。桃くんも。もう結婚して長いんだし、ちゃんと検査してもらって、何かいい方法が見つかるかも知れないよ」  お姉ちゃんとこは、すぐに一人目ができたから、そんなに簡単に検査だなんだというけど、お金だってかかるっていうし、旦那さんがこうゆうのって協力してくれないと無理だし、わたしからそういうの言うのって… 「お待たせいたしました。こちらハンバーグのセットです」 「ハイ!」わたしは小学生のように真っすぐに右手を上げる。おねえさんがそーっと滑るようにハンバーグののった鉄板をわたしの目の前に置く。これまた湯気が出ていて、デミグラスソースが鉄板の上でパチパチと音を立てている。お肉の焼ける匂いとソースの匂いが混ざって、ちょー旨そう。早く食べたい。 「鉄板が熱くなっております。お気をつけくださいませ。こちらビーフシチューです」  「はい」お姉ちゃんが小さくうなずく。白い磁器の器に盛られたビーフシチューが置かれる。濃いブラウンのシチューの中にニンジンの赤、ブロッコリーの緑が顔を覗かせ彩りを添えている。
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