庭師テツの番外編 鎮守の森 24

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庭師テツの番外編 鎮守の森 24

 テツさんの手のひらに朝日が当たり、白く輝いて見えた。  戸惑いながら……おれも再び手を伸ばすと、ギュッと離れないように握りしめてくれた。 「来い、こっちだ」 「テツさん?」 「早く見せたいんだ。君に」  テツさんは他人の庭なのに、迷う事なく、ずんずんと中に入っていく。  それにしても何と広い庭園なのか。  清らかで明るい世界が、どこまでも広がっていく。  誰かに手を繋いでもらうのは、いつぶりだろう。  幼い頃、父や母に繋いでもらって以来、こんなにあたたかな手に触れたことはなく、泣けてきた。だが涙なんて見せるわけにいかないので、キッと睨むように空を見つめた。 「桂人……この庭はいいだろう? まだ再生途中だが、立っているだけで幸せな気分になり、歩けば心が躍り、希望が降り注ぐようだ。俺はこの庭を元の姿に戻すために通っているんだ。ここは海里さん……つまりお前の足を治療してくれた医師の大切な恋人の住まいなんだよ」  恋人……?  泣くまいとスッと見上げた先の窓辺に、黒髪の可愛らしい雰囲気の青年とよく似た少年の姿を捉えた。  すぐに彼らは視界から消えてしまった。  あぁ……あの青年の事か。  彼は男だが、おれにはすぐに分かった。  あの医師と青年の深い関係を理解できた。  男と男で愛し合うのは普通ではない。だから社であの青年に抱いた感情を最初は自分自身が理解できなかった。数年越しでようやく気づいた時に、結果は散々だったが……  あの時……好きになれば……男も女も関係ないと知った。  だがそれは、心から愛する人限定だ!  雄一郎は違う、絶対に違う!それが分かっていても躰を差し出さねばならないのか。 「テツさん!」  可憐に弾む声がした。  振り返るとさっきの青年と少年が傍に立っていた。 「あぁ柊一、おはよう」 「おはようございます。あの、そちらが桂人さんですか」 「あ、あぁ……コホンっ、ちょっと研修がてら連れて来た」  テツさんは恥ずかしそうに、パッと繋いでいた手を離した。  おれの手には……名残惜しい気持ちだけが残った。 「はじめまして桂人さん。僕はこの屋敷の主、冬郷柊一(とうごうしゅういち)と申します」  すっと真っすぐに差し出された白くたおやかな手。  おれが触れたら穢れそうな、清楚な雰囲気の青年だ。  あの医師と彼は、この美しい白薔薇の館にどこまでも馴染み受け入れられているんだな。  こんな世界があるなんて、現実に存在するなんて……知らなかった。 「おれは……柏木桂人(かしわぎけいと)です」  彼との握手は……おれがテツさんの口づけを受けた時に抱いた時とよく似ており、どこまでも心地よかった。  どうやら彼は……とても居心地のよい人間のようだ。  次に隣に立っている少年とも握手した。 「僕は弟の雪也です。よろしくお願いします」 「……あぁ」 「うわぁケイトさんって、外国人風のお名前ですね! あぁそうだ!確かトランプの(よん)って……えっとぉ……1がエースで、2がデュース、3がトレイで、4がケイト……11はジャックで、12がクイーン、13がキングです。だから『ケイト』は『し』ですね」  死……?  悪気はないだろうが……その言葉におれの正体を見破られた心地になり、気分が一気に下がってしまった。  確かに、おれは……『死』に一番近い人間だ。  こんな幸せな館に不釣り合い過ぎる──  隣に立っていた少年は無邪気に笑っていたが、テツさんは苦虫を噛み潰したような顔になっていた。 「違う! ケイトは『(かつら)の人』と書く。桂の名を持つ男は……古来から月に住むという伝説上の男、美男子を意味する。だから決して『死』のイメージではない!」  おれが照れ臭くなる程の言葉を、迷いもせずに言い放つもんだから、こちらが恥ずかしくなってしまう。  テツさんは熱い男だ。  テツさんこそ……名前通りじゃないか! 「あ、あの……ごめんなさい! そんなつもりでは」 「あ……すまない。俺の方こそムキになって」
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