庭師テツの番外編 鎮守の森 48

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庭師テツの番外編 鎮守の森 48

    ふと目覚めると、辺りはすっかり暗くなっていた。 「あ……」    あのまま、ふたりで気を失うように眠っていたのか。  男二人で眠るには狭いベッドから、おれが落ちないように、彼の懐深くに背後から抱きしめられていた。  こんな風に人肌に包まれて穏やかに目覚めるのは、いつぶりだろう。  母の懐で最後に眠ったのはいつか。下に大勢の兄弟がいたので、きっと遡れば乳飲み子の記憶になるのだろう。  おれは……彼に背中を預け、勾玉のように丸まっていた。  テツさんの太い幹で貫かれた部分は、まだヒリヒリと熱を持っていた。 「んっ……あっ、まさか……」  いや、違う。まだテツさんのものが中に挿入されたままだ。  一気に羞恥心を煽られる。  意識をそこに集中しては駄目だ……再び疼いてきてしまう。  それにしても先ほど見た白い光は、一体何だったのか。  光はおれの夢の中にも出て来た。  白い白煙となり『鎮守の森』を漂い、深く暗い森を覆いつくそうとしていた。  白い世界へ変えようとしていた。 a417371d-0d7b-4234-8119-3f9108102f4d   **** 「兄さま、何をお祈りしているのですか」 「雪也……」 「今日はずっと上の空ですね。窓の外ばかり見て……あの離れに何か」  あれから何時間経ったのか。  僕は下校した雪也を放置して、離れの様子をずっと窓から見守っていた。  どうか、どうかあの二人が無事に結ばれますように。  海里さんから聞いた話は、とても不思議な内容だった。  おどろおどろしい日本のおとぎ話はこの世の現実で、僕をも巻き込み、すぐ近くで繰り広げられていたのだ。  こうしている間も……今は物語の要となる厳かな儀式の最中だ。  純潔の生贄と純潔の生贄が深く交わった時、長年かけられていた二重の呪いが、すべて解ける。    小さな教会だった場所……秘密の庭園内の東屋で桂人さんを発見した時、僕の中でモヤモヤとしていた謎が綺麗に解けた。  テツさんと桂人さんだった。  呪いを解くための 鍵となる人物(キーパーソン)は。  白の館……冬郷家の当主として僕の使命は、その二人を繋ぐこと、橋渡しをすること。 「雪也、今は神聖な儀式の最中なんだよ」 「え……あの、もしかして……テツさんとケイトさんの」  聡い雪也は、もう全てを悟っているようだ。 「うん、そろそろかな……」 「いつからお籠りに?」 「朝からだよ」 「えぇ? だってもうお夕食の時間ですよ。そうだ、兄さま、何かお食事を運んだ方がいいんじゃないですか」 「えぇ?」 「えーっと『腹が減っては戦は出来ぬ』でしたっけ。お腹が減っていては、十分に活動ができないでしょうし、もちろん戦うこともできませんよね」 「う……確かに」  雪也ってば、本当に……賢いというか、なんというか。  思わず苦笑してしまった。 「そうだね。難しい物事に取り組む時は、まず腹ごしらえをしてエネルギーを補給すべきだね」 「そうですよ。きっと長引きますよね」 「中秋の名月の月が、空に溶けるまでかな」 「じゃあ猶更です。沢山美味しいお食事を作ってお届けしましょうよ」 「わ、分かった。僕に出来ることだね。それは」  そんな会話を繰り広げていると玄関のチャイムが鳴り、すぐに雪也が窓の下を覗いて微笑んだ。 「兄さま! 海里先生のお帰りですよ。よかった!アドバイスしていただきましょうよ」 「そうだね」  ここ1週間ほど、海里さんはずっとご実家の森宮家に泊まっていた。  今日ここに帰宅した意味は……  いよいよ、海里さんが話して下さった日本のおとぎ話の頁が捲られるのか。  闇夜を照らす一筋の光。  月の光を以て、全てを正常に……  生贄となり悲しい生涯を過ごす人を救う。  そのための戦いが開幕するのか。 あとがき (不要な方はスルーで) **** 物語は最後の山場を迎えようとしています。 奇想天外な話になってしまいましたが、終着点はハッピーエンドです。 番外編終了後は、海里×柊一ののんびりほのぼのとしたお話に戻りますので、もうしばらくお付き合いください♡そんなにはかからないはずなので……
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