庭師テツの番外編 鎮守の森 49

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庭師テツの番外編 鎮守の森 49

「海里さん、お帰りなさい」 「ただいま柊一。君に早く会いたかったよ」  玄関で彼を出迎えると、そのままギュッと強く抱きしめられた。     あ……海里さんの匂いだ。 「君に会えなくて寂しかったよ。俺の家のことで迷惑を掛けてすまない」 「迷惑だなんて……それにこれは冬郷家も関わることです」  海里さんが森宮家に籠もって発見した事実は、隠すことなく共有してもらっていたので不安はなかった。でも海里さんに会えないのは寂しかった。  決して漏らさなかった気持ちが、零れそうになってしまう。 「指輪を……」    僕が海里さんの指にリングをはめると、僕達の心はぴったり寄り添い重なっていく。 「柊一……もしかして、桂人くんが見つかったのか」 「そうなんです」 「やはりここにいたのか」 「朝方……『秘密の庭園』の東屋で、ケイトさんを発見しました」 「そうだったのか、で、彼らは今、どうしている?」 「あの……多分、今はまだ儀式の最中かと」  口に出して、恥ずかしくなった。 『純潔の生贄同士が深く交われば白い霧が生まれ、過去の因縁や柵を浄化していく』  その儀式の真っ最中だ。  ふたりの様子を想像すると赤面してしまう。  海里さんが、そんな僕を見つめふっと微笑んだ。 「柊一はいけない子だね。そんな想像をして」 「あっ、その……うぅ」 「俺を求めてくれて嬉しいよ」    毎日のように抱き合っていた海里さんと1週間も離れて過ごすのは、正直溜まらない程苦しかった。  彼と眠っていた床は独りでは冷たく、彼の匂いだけが鼻についた。  海里さんは僕にとって……恋しくて会いたい人だと、何度も何度も思った。 **** 「海里さん……本当にお願いしても?」 「あぁ食事を届けるくらい、簡単なことだ」 「ありがとうございます」    テツさんが故郷から持ち帰った絵巻物に全ての謎を解くための暗号がちりばめられていた。  勾玉を貫く剣。その上に浮かぶ月はほぼ満月だった。  その周りには彼岸花の絵も記されていたので、儀式の日は『仲秋の名月』だという結論に陥った。  だから、きっと明日いっぱいは、二人の儀式は続くだろう。  といっても……これは夢物語ではない。  彼らは生きている人間だから空腹にもなるだろう。  雪也の助言通り『腹が減っては戦は出来ぬ』だ。  日持ちする食料や温かい食事、いろんな物を用意し、海里さんに離れに運んでもらうことにした。  僕が行ってもいいのだが、その役は海里さんが買って出た。 **** 「ん……桂人どうした?」  抱きしめて眠っていたはずの彼の肩が小刻みに震えていた。    ようやく手に入れた俺の桂人……  片時も離したくなくて、自身を挿入したまま眠りに落ちてしまったようだ。 「て、テツさん……今、故郷の夢を見ました。鎮守の森に白煙が立ちこめ…… 『鎮守の森』を漂い、深く暗い森を覆いつくして……それでっ……ううっ」 「それでどうなった?」 「あの……社を……おれがずっと閉じ込められていた社を、壊してくれました」 「そうか……そういうことだったのか」  桂人はむせび泣いていた。    その躰をもう一度抱き直して、背中の傷痕に唇を這わせた。  消えることなく刻まれたのは生贄の刻印。 「あっ……んっ……」  桂人は喉を震わせ、俺をきゅっと内側で締め付ける。 「あぁ……っ、また……?」 「もう一度いいか」 「ん……テツさんになら、何をされてもいい……何度でも」  そんな可愛く無防備なことを口走って…… 「抱くよ。何度でも……お前をどこにもやらない」 「……明日までこうしていて……欲しい……中秋の名月……おれが捧げられる日が終わるまで」 「あぁ、そうしてやる」  彼の細腰を力強く両手で掴んで、俺自身の再び嵩を増したもので内襞を擦ってやると、桂人はすすり泣いた。  震える背中へと、口づけの雨を落としながら――  再び彼と繋がっていく。
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