羽ばたく力を 14

1/1
前へ
/512ページ
次へ

羽ばたく力を 14

「瑠衣さん、アーサーさんはいつもの部屋に泊まりましたよ」 「うん、分かった」 「あの、昨日は海里さんも一緒だったようです」 「ん? ……あぁ、そうかだからなんだね」  海里からアーサーの匂いがしたのは、そのせいだったのか。   「とても……仲睦まじい親友なんですね」  桂人が、ふっと……羨ましそうな顔をした。  ふぅん……そんな表情も出来るようになったのか。   15歳で人生を閉ざされてしまった桂人だから、親友と呼べる人がいないのだろう。  僕もだよ……僕もずっとそうだった。あの頃は何もかも諦めた人生だったから。   「よし、桂人と僕もそうなろう。君は僕にとって数少ない血縁者で従兄弟で、とても気を許せる存在なんだ」 「瑠衣さん、おれのこと……そんな風に思ってくれるのか」  不慣れな桂人と僕だから、アーサーと海里のようにはいかないけれども、もっと歩み寄れる。  だから……お互いに、照れ臭く笑った。    アーサーが使っている部屋に入ると、今度は海里の匂いが残っていた。 「くすっ、海里はしどろもどろで話を逸らしたけど、そういう理由か。きっと夜な夜な話しているうちに、同じベッドで一緒に眠ってしまったんだね」  乱れたベッドに、脱ぎ散らかした服。 「もう、アーサーは散らかして」  洗濯物を拾い上げていくと見慣れぬパンツを発見した。  んん? これってアーサーのではない。  アーサーの衣類は全部僕が選んでいるから分かる。  もしかして……さては海里だな。  海里、君は眠るとき時、相変わらず裸に?    そんな姿で……僕のアーサーの隣で裸で眠るなんて、ずるいよ。  少し妬いてしまう自分に苦笑した。 「馬鹿だな。海里は大事な兄なのに……僕だってロンドンでは海里と同じベッドで眠ったこともあるのに」    洗濯物を手際よくまとめ、脱衣所の籠に入れた。  そうこうしているうちに、湯船に湯が張れたようだ。  英国ではシャワーで済ますことが多いので、久しぶりの湯船だ。 肩まで浸かると心地良い蒸気が立ち上がり、眠気に誘われた。 「あぁ……気持ちいい」  湯船のへりにタオルをのせて、頭をもたれた。 「ふぅ……流石に疲れたな」  英国から飛行機で日本に、そのまま冬郷家、そして病院で寝ずの看病。雪也さまが幼い頃はもっと体力があったような気がするのに、僕も歳かな?  ゆったりとした心地になって、目を閉じた。 「……アーサーに早く会いたい」  まどろんでいく。眠ってはダメなのに……。 **** 「うわ! 雨か」  冷たい雨に降られ、白薔薇の屋敷に戻ってきた。 「アーサーさん、大丈夫ですか。連絡を下されば傘を持っていったのに」 「傘をさす習慣がなくてな。しかし、参ったよ。日本の雨は大粒でびしょ濡れだ」 「あぁ、もうっ、風邪を引きますから、早くお風呂に」  タオルをもった桂人に早く早くと背中を押された。 「お風呂の準備は整っていますから」 「そうか、気が利くな」 「えぇ、きっと気に入っていただけるかと」 「うん?」 「いってらっしゃいませ」 「ふぅん……桂人も執事が板についてきたな」  風呂を浴びたら、今度は雪也くんの見舞いに行こう!  そうしたら、ようやく瑠衣に会える。  一晩いなかっただけで寂しかったぞ。  それが嬉しくて、俺は階段を軽やかに駆け上がった。
/512ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5397人が本棚に入れています
本棚に追加