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大きな翼 2
「さぁ、開けてご覧」
海里先生に言われて封筒を開封すると、中からまた手紙が出てきた。
差出人を見ると『Arthur&Rui』と書かれていた。
「え?」
「手筈は整えたよ」
「え? 何のでしょうか」
何を言われているのか、咄嗟にはよく分からなかった。
「これは招待状だよ」
「え?」
僕は未だ訳が分からず、会話を上手に続けられない。
「可愛いね、そんなに驚いて」
「あの……何の招待状でしょうか」
「アーサーから連絡があってね、新しい会社を設立するそうだ。それでロンドンで設立パーティーをするから冬郷家の当主にも来て欲しいそうだ。もちろん俺もね」
それを聞いて慌てて開封すると、手紙と一緒に英国行きの航空券まで出てきた。
それは……僕が喉から手が出るほど欲しかったものだ。
「あの、これって本当に英国行きですか」
「そうだよ。俺と一緒にパーティーに出席しよう。休みを取ったよ」
「海里さん。こんなサプライズ……僕、驚いています」
「雪也くんの様子が気になるのだろう? ロンドンなら、様子を見に行けるだろう」
「嬉しいです」
僕は席を立って海里さんにふわりと抱きついた。
「嬉しいです! ありがとうございます。あなたが手筈を整え下さったのですね。海里さんはやっぱり僕の王子さまです」
「うん、柊一の夢を叶えてやりたくてね」
僕と海里さんの会話を、桂人さんとテツさんが和やかに見守ってくれていた。
「海里さん、柊一さん、お屋敷のお留守は、オレたちにお任せ下さい」
「あぁ、お前達がいてくれるから、安心だよ」
僕と海里さんは、あの空を駆ける船に乗れるのか。
「あの……僕は外国へ行くのは、実は初めてなんです。足手纏いになるかもしれません」
「柊一、そんなこと気にするな。君はいつも人のために生きてきた。それに、この旅行は俺たちの新婚旅行でもあるんだよ」
「あっ」
「柊一、俺と一緒に夢を叶えよう― Dreams come true!」
****
英国 アーサーの祖母の屋敷
「瑠衣? ここにいたのか」
「あっ、アーサー、ごめんね」
瑠衣の姿が見えないので探すと、執務室の机で惚けており、手元には例のポストカードがあった。
「また見ていたのか。昨日届いた手紙を」
「……うん。これは特別な結婚報告カードだからね」
「どれ、俺にもまた見せてくれよ」
「ほら見て……この柊一さまの嬉しそうなお顔を」
「ははん、海里も蕩けそうな表情だな」
「どんなに素晴らしいお式だったのか、じわじわと伝わってくるよ」
写真は、柊一くんがウエディングベールを被り、はにかんだ笑顔を浮かべ、甘いマスクの海里がふわりと頬を寄せる……幸せの瞬間を切り取ったものだった。
(イラスト・おもちさま)
「幸せのお裾分けだね」
「俺たちからの招待状も届いた頃だろう」
「本当に来てくれるかな?」
「もちろん! 柊一くんもそろそろ我慢の限界だろう」
「あの、柊一さまは海外旅行をしたことがないんだ。いつも見送られるばかりで……だから英国にいらして下さったら、僕……」
瑠衣がじっと俺を見つめる。
やれやれ、そんな顔で見つめられたら断れないよ。
「分かった分かった。お世話をしたいんだろう」
「いいの?」
「瑠衣のしたいようにすればいいよ。だが新婚さんの邪魔はし過ぎるなよ。まぁ……俺はそんな瑠衣が好きなんだが」
照れ臭く、そっぽをむくと、瑠衣が俺に近づいてきた。
「アーサー、寛大なアーサーが大好きだよ」
俺の胸に両手をあてて、瑠衣がスッと背伸びをする。
だから俺からも顔を近づけて、甘い甘いキスを交わす。
「今年は何度キスを出来るかな」
「そんなの……数え切れないよ、あっ……」
「瑠衣、可愛い……期待していてくれ。何度でもするよ」
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