大きな翼 14

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大きな翼 14

「お客様、間もなく着陸態勢になりますので、お座席のリクライニングをお戻し下さい」  客室添乗員が話し掛けても、柊一は一向に起きる気配がない。  頬を緩めて、すやすやと幸せそうに眠っている。  ふぅむ……結局、機内で8時間以上寝続けるとは、ある意味強者だな。  君のことだから、昨夜は興奮して眠れなかったのでは……いや、なかなか寝かさなかったのが俺の方か。君を寝不足にしたのは、俺だったな。  どうも俺は、君のことになると節操がなくなってしまう。 「お客様……あのぉ」  だから客室乗務員が柊一の近くの寄るのにも、妬いてしまうよ。 「しっ、俺が彼を起こすので大丈夫だ」 「あ……はい♡」    人差し指を唇に当てて柔和に微笑んで見せ、手っ取り早く追い返した。    柊一はリクライニングを戻しても目覚めない。 「ん……おかあ……さま……」  そんな可愛い声で、切ない寝言を言うなんて反則だ。  胸が締め付けられるな。  母親か。  俺の母親も随分前に他界したので、時々無性に会いたくなる気持ちが分かるよ。  今……柊一は空を駆けている。  天国に逝った人達の近くにいるから、優しい楽しい夢を見られるのかもな。  律儀にしっかりシートベルトはしているので、寝かしてままでも問題はないか。  俺は柊一にブランケットかけ直してやり、その下で手を握って、着陸を待った。  ただ傍にいてくれるだけでいい。  そんな控えめな幸せが滲み出てくる相手が、俺の柊一だ。 **** 「瑠衣、日本からの便は、無事に到着したようだよ」 「あぁ、良かった」  瑠衣はあれからずっと祈っていた。  彼らの無事の到着を…… 「良かったな」 「いや、まだ油断出来ないよ。柊一さまの元気なお姿を、この目で見ないとね」  おーい、先ほどまでの可愛い瑠衣はどこへ?  使命感に燃える瑠衣もスキだけれどさ、もはや年の離れた弟にべったりの兄みたいで、瑠衣の意外な一面を見ている気分だよ。  先ほどまでは瑠衣に相手されなくて若干拗ね拗ねモードだったが、そう考えると、楽しくなってきた。 「瑠衣、安心しろ、何しろ柊一くんには、麗しい王子様が付いている」 「それって……海里のこと?」 「そうだ、あいつはますます色男になっただろう」 「だから、心配だ」  瑠衣は意外に海里に手厳しいな。  まぁ、俺は瑠衣のいろんな顔が見られて嬉しいが。 「もう、アーサーは何でさっきからニヤニヤしているの」 「瑠衣の百面相が可愛いからさ。さぁそろそろ出てくるはずだ。もっと前に行こう! ほらウェルカムボードを持ってきたんだ」  鞄に入れていたボードを見せてあげていると、瑠衣が今度は満面の笑みを浮かべてくれた。 「流石、僕のアーサーだ」  こんな時の瑠衣は、少し女王様みたいだ。 「さぁ、来るか」  その時、到着ロビーに歓声が沸き上がった。   It's like a fairy tale! It's romantic!  げげっ、まさか……!
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