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霧の浪漫旅行 12
「わぁ……こ、これは……かなり大きいですね。あのフォークとナイフはありますか」
「いや、必要ないよ」
「え?」
「柊一、ハンバーガーは、こうやってかぶりつく方が美味しいんだ」
柊一が目を丸くしているので、俺は大きな口を開けて、ガブッとハンバーガーをかじって見せた。
せっかくロンドン名物のハンバーガーを食べに来たんだ。
『郷に入れば郷に従え』だろう。
(画像提供 えーゆーさん あつ森にて制作)
「なるほど。豪快ですね。とっても美味しそうです! えっと……僕もやってみますね」
柊一が小さな口を大きく開けて、かじりつく。
その様子が、あまりに可愛くて悶えてしまった。
口を大きく開くのは滅多にない。
あぁそう言えば、先日……柊一が初めて試みてくれたことがあったな。
彼と身体を重ねた場面を思い出して、ひとり赤面してしまった。
「海里さん、どうかしました?」
「い、いや――なんでも」
「くすっ、海里さん、ここに……」
柊一が目を細め、指先で俺の唇に触れてくれた。
「‼」
俺は小さな子供のように心許ない気持ちになった。
だが……柊一はそのまま躊躇いもせずに、指先を自分の口に含んでくれたので、感動してしまった。
「ふふ、甘いですね」
「柊一、あまり煽らないでくれ。今すぐ帰りたくなる」
帰って君をベッドに押し倒し、身体を重ねたくなるんだ。
すると、突然、柊一が真っ青になる。
ん? 俺何か変なこと言ったか。(自重したつもりだが)
「大変! お腹でも壊されたんですか」
「ちっ、違う!」
柊一の天然は、相変わらずだなぁと脱力する。
隣で、俺と柊一の様子を、アーサーが苦笑しながらも、羨ましそうに見つめている。
「ハイハイ、どうぞ、そちらはそちらでイチャついてくれ」
「はは、悪いな、海里」
アーサーが豪快に、俺の真似をするかのようにハンバーガーに顔を埋めた。
案の定、俺みたいに頬にケチャップをつけて、ニヤッと笑った。
アーサーのこういうところは、学生時代と変わらないな。
茶目っ気のある所、人間らしいところ。
****
「瑠衣~」
「もう、君は狙い過ぎだよ」
瑠衣は呆れたように笑い、それでも優しい表情で、俺の頬についたケチャップを指で取って、ペロッと舐めてくれた。
流石、俺の女神だ! ありがとう!
「甘いか」
「……まぁね」
あの日は、俺が君の頬についたケチャップを舐めた。
覚えているか。
あの日、瑠衣は目を見開いて驚き、俺はケチャップの酸味と甘さをしみじみと感じていた。
あの頃は……甘酸っぱい恋の味だったが、今は円熟の甘さだ。
瑠衣もあの日を思い出したのか、頬を淡く染めていた。
相変わらず君の透き通るような白い肌は、感情を映す鏡のよう。
ロンドンのハンバーガショップで、思い思い寛いだ俺たちは、再び霧の街を歩き出した。
「さぁ、次はどこへ行こうか」
「アーサー、『移動遊園地』はどうかな? あそこはおとぎの国のようだから、柊一さんも気に入ると思うよ」
「了解!」
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