霧の浪漫旅行 13

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霧の浪漫旅行 13

「わぁ……」  僕は公園の中に突然現れた遊園地の存在に、目を丸くしてしまった。 「柊一、ここが遊園地だよ。さぁ入ろう!」 「あ、はい」   『Funfair(ファンフェア)』と書かれたカラフルな看板に目を奪われていた。    ここは公園の一角に突如現れた『まるで……おとぎの国』の世界だ。 「あ、あの……海里さん、信じられません。実は遊園地自体、あまり行ったことがないので分からないのですが、こんな素晴らしい設備が街の中にあるなんて」 「これは移動式の遊園地なんだよ」 「移動式?」 「期間限定で現れるのさ。レトロな雰囲気だろう? 俺が学生の頃と変わらないままだ」 「そうなんですね」    蒸気で動くメリーゴーランド。古いコインを入れて使うスロットマシーンに、大きな塔の形の滑り台がずらりと並んでいた。 「あ……あれって、ポップコーンですよね!」 「食べてみるか」 「実は食べたことないんです。その……母が買い食いは駄目だと」 「そうか、じゃあ俺が許可するよ」 「はい!」 「おいで」    二人で人集りを覗き込むと、ガラス張りのケース中でポンポンと音を立てて、白いものが軽快に弾けていた。 「珍しい?」 「えっと……美味しそうです!」 「ははっ、いいね。柊一には、もっともっと色々な経験をさせてやりたいよ」 「でも……僕はもういい大人ですが、いいのでしょうか」 「子供の頃に我慢したことや、し損ねたことが他にもあるだろう。それを俺と体験していかないか」 「嬉しいです」  海里先生の言葉は翼だ。  いつも僕を羽ばたかせてくれる。  出来なかったことがあれば、今すればいいと導いて下さる。  生きているのだから、世の中は出来ることだらけだ。   「ふむ、柊一は、どの味がいい?」 「えっと」    ポップコーンにはチェダーcheeseとキャラメル、チョコレート、プレーンと4種類の味があったので迷ってしまった。 「そうだ。アーサーと瑠衣も買わないか」 「いいね。買うよ」 「じゃあ全種類だ」  そうか……  僕はもう一人ぼっちではないんだ。  しかも今日は……海里さんだけでなく、アーサーさんと瑠衣も一緒だ。  思えば僕の人生は、いつも道が一つしかなかった。  海里さんと出会う迄は、他の道を選ぶ権利も選択肢もなかった。 それが当たり前だと思っていたが、今は違う。  僕は一人ではなく、こうやって仲間に囲まれている。 「柊一さん、どうしたの?」 「瑠衣……瑠衣も初めてイギリスに来た時、こんな気持ちになった?」 「……なったよ。何もかも初めてで新鮮だったよ」  僕らはベンチに腰掛けて、早速食べることにした。  手袋が上手く外せなくてモタモタしていると、海里さんが口に放り込んでくれた。   「ほら、口開けて」 「えっ、でも」 「ほら、アーン」 「は、はい」  言われるがままに口をあけると、甘くてカリッとして美味しかった。 「柊一さん、チョコレート味も食べる?」 「うん」 「柊一くん、シンプルなのも食べてみろよ」 「あ、はい!」  口の中で、次々に広がる味は不思議なハーモニーだった。 「美味しいです!」  甘いのも塩っぱいのも、人生だ。    全部集まると、こんなにも深い味になるんだ。  それを知って、感激した。 「瑠衣、俺も君の味が欲しい」 「くすっ、分かってるよ。アーサー、あーん」 「んん? また俺を可愛い動物扱いしなかったか」 「さぁね」  瑠衣の砕けた笑顔、アーサーさんの明るい笑顔。  全部包み込んで下さる海里さんの優しい笑顔に囲まれて、僕も心から笑った。 「瑠衣のあんな砕けた表情は見たことがないです」 「俺もさ。弟があんなに笑うなんて。俺まで幸せだ」  僕と海里さんはベンチでまた手をギュッと繋いだ。 「少し冷えているな」 「あっ」  僕の手は海里さんのコートのポケットに、お邪魔した。
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