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霧の浪漫旅行 17
「せっかくだからロンドン名物・Pubに寄ろう」
「いいね」
ロンドンでは『Pubがない通りは道でない』と言われる程、馴染みの場所だ。
だから、どの通りを歩いても必ず目に入ってくる。
恋人や友人、同僚と気軽に入れる社交場で、ビールをゆっくり飲みながら会話や雰囲気を愉しむ場所だ。
「えっ……ここ? アーサー、ここに本気で二人を連れていくのか?」
「柊一くんにとって、人生勉強さ。なぁに親愛なるパートナーと一緒だ。文句はないだろう」
アーサーが向かった先は、いわゆる男性の同性愛者専用のPubだった。
僕とアーサーがロンドンに出てきた時は、よく立ち寄る場所だ。
ロンドンのお屋敷では気を張ってばかりの僕の気分転換にと、連れてきてもらったのがきっかけだった。
初めて店に入った時は、流石に驚いた。
……
「瑠衣、怖がるな。大丈夫だから」
「う……うん」
男性しかいない空間で異様だと思ったのに、とても居心地が良かった。
「ここでは僕とアーサーが心から愛し合うのを咎める人はいないのか」
「そうだよ。瑠衣……こっちにおいで」
人目を気にしなくていいのが、こんなに寛げるなんて知らなかった。
僕らは芳醇で味わい深いエールビールを片手に、愛をそっと語りあった。
「瑠衣、愛している」
「アーサー、僕もだよ」
「瑠衣……」
薄暗い照明の中で、アーサーが積極的にスキンシップをしてくる。
耳朶を擽られ腰を抱かれると、僕の気分も高揚していった。
華やかな香りとコクのビールを味わいながら、僕がアーサーに酔う場所だ。
……
(画像提供 auさん・あつ森にて制作)
あっ……つい懐かしい思い出に浸ってしまった。
「柊一さん、大丈夫かな?」
「少し二人にしてやろう」
「そうだね。海里がリードするだろうし」
「お互いに、甘い時間を過ごそう」
「うん、分かった」
僕はビール片手に、飴色の煉瓦の柱にもたれた。
見渡せば……思い思いに、恋人同士が寛いでいる。
それが心地良くて、これから列車に乗るというのに酔ってしまいそうになる。
「瑠衣、二人を見て見ろよ」
「んっ?」
柊一さんは最初は雰囲気に驚いているようだったが、今はこの状況を楽しもうとしているのが手に取るように分かった。
「お? やるなぁ」
「あっ」
そして驚いたことに、背伸びして海里の頬にキスをしていた。そんな大胆なことを柊一さんがするなんて思わなかったので、唖然としてしまった。
「へぇ、意外だな」
「柊一さんだって男だ……たまには、自分からも求めたくなるのだろう」
「……瑠衣もなるのか」
それは……僕だって男だ。
受け入れるだけでなく、求めたくもなる。
そんな押し込めた衝動が、ゆらりと動き出す。
「アーサー、ダーツをしよう! 僕が勝ったら、僕の言うことを聞いてくれる?」
「んー、瑠衣の腕前を知っているから、誓えないな」
「もうっ、今日は騎士らしくないね」
「はは、ベッドの上での主導権だけは譲れない」
「くすっ、それは僕だってそれがいい」
「珍しいな、君が外で閨の話をするなんて」
「なっ、君が言わせたんだ」
「ははっ、行こうぜ」
肩を組んで、ダーツ場に向かうと、海里と柊一さんと出くわした。
「なんだ? アーサーと瑠衣もやるのか」
「まぁね」
「せっかくなら四人でやろう!」
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