霧の浪漫旅行 18

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霧の浪漫旅行 18

「始めるか」 「おぉ!」  俺とアーサーは、気さくにグータッチをした。  フランクな付き合いの出来る友人の存在が心地良いと、互いに思う瞬間だ。 「海里には負けないぞ」 「俺だって!」  こんな若い闘争心を抱くのもいい。 「じゃあさ、1位の人が4位の人に、して欲しいことをリクエスト出来る」 「ふむ、じゃあ2位の人は3位の人にリクエスト出来るんだな?」 「よし、上位に入ろう!」 「だな、俺たちで上位は独占だ」  アーサーと俺はエールビールの酔いが回ってきたのか、上機嫌だ。    一方瑠衣と柊一の様子を窺うと、何故だか二人は余裕の笑みを浮かべている。  柊一は初心者のはずでは?   君がダーツをしているところなんて見たことないぞ。    まずは瑠衣がとても慣れた手付きで、2本の指でダーツを持った。 「……あれは指離れがいい上級者の持ち方だ」 「まぁな、俺の瑠衣はダーツの達人だからな」  瑠衣は背筋をスッと伸ばして、トリプルに見事命中させた。 「瑠衣、すごいな。最初から」 「ふっ」    余裕の笑みを浮かべる様子に、瑠衣が英国で過ごす日々がいかに充実しているのか伝わってくる。   「いい腕だな。アーサー、瑠衣がいるから俺たちで上位独占は厳しいかもな」 「いや、俺だって負けてない。マナーハウスで、よく二人で競いあっているんだ」 「おいおい。アーサーは足がふらついているぞ」 「おっと」 「危ない」  アーサーがよろけたので俺が腰を支えてやると、瑠衣がポカンとした表情を浮かべていた。 「ん? 俺に妬いた?」 「何を言って? ほら君の番だ」 「あぁ」  しかし、ダーツなんて何年ぶりだ?  スタンダードな持ち方でシュッと投げると、見事に外れてしまった。 「あれ?」  格好悪い……外科医としてのゴッドハンドは名ばかりなのか。   「なんだ、海里は不慣れだったのか」 「う……瑠衣は本場仕込みだから……仕方が無い」 「ははっ」  瑠衣が朗らかに不敵に笑う。  今日の瑠衣は、男らしく、妖艶だ。  すると柊一が澄んだ瞳で、俺を見上げてくる。 「海里さん、気を落とさないで下さい。大丈夫ですよ。僕が挽回しますから」 「え?」  んん? これは個人戦で、チーム戦ではないのだが。  と、突っ込みたい気持ちは、グッと我慢した。  柊一が俺のために頑張ると言ってくれるのが、嬉しいから。  柊一が集中して、セットアップから紙飛行機を飛ばすようにスッと投げると、ダーツボードの中心(ブル)に入り、50点を獲得した。 「おぉ、柊一くんは上手だな!」  アーサーが褒めると、満更でもないように頬を赤らめる。 「瑠衣……仕込みなんです。瑠衣が日本いた時、よく一緒に遊びました」 「そうだったのか」 「それに……」 「なんだ?」 「海里さんの点数を、僕が挽回したくて」 「へ?」  だから個人戦なのだがと言いかけて……  誰もがその先の言葉は呑み込んだ。  柊一が屈託のない笑顔で、俺のためにいい点を取ろうと頑張っている姿が微笑ましくて。 「海里、この勝負は柊一チームの勝ちだな」 「アーサー、悪いな」 「景品はこれだ」 「なんだ?」 「マナーハウスの庭に建てたコテージの鍵だ。二人暮らしもいいぜ!」 「アーサー! 瑠衣、ありがとう!」 「さぁ駅に行こう! 乗り遅れるぞ」 「おぉ!」  俺たちはまた肩を並べて歩き出した。  さぁ、アーサーと瑠衣の本拠地へ行ってみよう!    
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