霧の浪漫旅行 43

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霧の浪漫旅行 43

 ロンドン、空港―― 「アーサーさん、大変お世話になりました。これから紅茶の事業をきっかけに日本と英国を行き来出来そうで、嬉しいです」 「そうだな。雪也くんの様子も、また気軽に見においで」 「はい、英国に来てみて良かったです。沢山の刺激をもらいました」  柊一の頬は紅潮し、瞳は生き生きと輝いている。  愛しい人の、活気に満ちた表情に満足する。  思い切って、君を英国に連れてきてよかった。  雪也くんが留学した後、時折見せる寂しげな様子、悲しげな瞳。  胸が痛かった。  どうにかしてやりたかった。  冬郷家の当主といえども、レストラン事業はホテルオーヤマの主導で、君の出番が全くないのも気になっていた。  幼い頃から君が努力して積み重ねてきた冬郷家の当主としての才覚を活かせる場を見つけてやりたかった。  だが、俺がお膳立てしては意味がない。  柊一自ら、見つけて欲しかった。  そんな願いが叶う旅になった。 「いい旅だったな」 「海里さんと一緒だったからです。充実していましたね」  俺たちは手を握りあって、アーサーと瑠衣に挨拶をした。 「そろそろ出発の時刻だ。今度は日本に二人で来てくれ!」 「気をつけて。必ず行くよ、テツさんに精油のことを学びに行かないとな」 「あぁ、待っている」  現実味のある約束をして別れよう!  次があると思えば、別れも寂しくはない。  そのはずだったが、瑠衣がほろりと突然泣いてしまった。 「瑠衣、君が泣くなんて」 「ごめん。柊一さんがあまりに清々しいお顔をしているから、うれしくて」 「瑠衣……」  瑠衣にとって、柊一は特別な存在だ。  瑠衣が単身で日本に戻った時、柊一はまだ10歳だった。  多感な時期を見守り、一緒に成長してきた仲間だ。 「瑠衣、また来るよ。瑠衣も日本に来て欲しい。由比ヶ浜に、君の実家が出来たと聞いたよ」 「あの家のメンテナンスや精油のこともあるし、テツと桂人にも会いたいし……何より柊一さんと海里に会いたいから、行くよ」  フランクになった瑠衣。  それを嬉しそうに享受する柊一。 「瑠衣は僕の心友……」  柊一が瑠衣を抱きしめると、瑠衣も少し戸惑いながら、柊一を抱きしめた。 「Bon Voyage!」  大きな翼に乗って、霧の浪漫飛行をしよう。  行き先は、まるでおとぎ話のような毎日。                      『霧の浪漫旅行・了』 後日談 ****  1年後……  日本の冬郷家には無事に英国紅茶販売所『冬愛舎』がOPENした。 4e412ab3-7efc-4324-a6c1-7d80fbeda27a 62cb4d8a-3c30-4950-971b-ec5c8d645b82  英国では瑠衣とアーサーが企画開発した『R-Gray』スキンケアブランド直営店が、ロンンドン市内に無事にOPENした。 『R-Gray』は、英国の草花をベースにしたオーガニックコスメブランドとしての方向性を無事に確立し、ブランドイメージに合わせて、明るく爽やかで穏やかな内装で、大好評だった。  今日も人々が癒やしを求めて、やってくる。 ad634961-53f8-4b35-a87b-b3e46ae22fc7   aabf4138-b6d8-41a3-9031-964525c5543a 292caefc-9c39-44b5-9ed7-3f8fb6912f54 b3112703-6516-4a08-a687-f1e9cd4e1a71(auさん作、あつ森にて)  日本と英国。  離れてはいるが、四人の心はとても近い。 「いらっしゃいませ、冬愛舎へようこそ」 「いらっしゃいませ、R-Grayへようこそ」  日本で柊一が微笑めば、英国では瑠衣が微笑む。  そんな優しく穏やかな関係を、生涯築いていくのだろう。  惜しみない愛と共に――                                  あとがき **** 今日で『霧の浪漫旅行』も終わりです。 『まるでおとぎ話』は、ここで一旦休載に入らせていただきます。 場を盛り上げてくださった読者さま、お話をあつ森画像で立体化させてくださったauさん、ありがとうございます。 再び完結マークをつけさせていただきますね。 また再開しますので、暫くお待ちください。 雪也と春子、テツや桂人のこと、まだまだ書きたいことがあります。 雪也と春子の恋の成就、結婚、出産、それを見守る海里先生と柊一。 日本に帰国するアーサーと瑠衣の様子など……書きたいことが沢山! ちなみに4月からは入れ替わりで『重なる月』を再開予定です。
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