05、その舟を漕いで征け

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 東堂が山下さんに声をかける。 「どう? 第一工場で、やって行けそう? もう三、四か月くらいは経つよね?」 「あっ、大丈夫だと思います」  山下さんは東堂に顔を向けた。 「なんて言うか……まあ、あのう。上の人とかも、ぼくの入社書類とか縁故がらみで色々と気を遣ってくれているんだろうなって思うんですけど、それでも悪い感じが全然なくて。逆に、今までの人生って一体なんだったのって思うくらい」 「そうかぁー」  東堂は、うれしそうに頬をゆるめる。そして、わたしへと視線を寄越した。 「出張の日程でさ。新人さんたちが配属されている現場も、見て回ったんだよね。そしたらさ。『あれっ』て、感じがあってさ、たしか茉莉ちゃんが気にかけていた子だよねって」 「覚えていてくれたのね」 「そりゃ、そうだろ」  東堂が応えながら、山下さんの肩を叩いた。 「なにかあったら、こっち頼ってきてくれてもいいから」  山下さんは相手に向き直って、深々と頭を下げる。 「ありがとうございます。まさか東堂係長の部下に、野々村さんがいるなんて思わなかった」 「これも、縁なんだろうなあ」  うなずいた東堂が機嫌良さそうに、対面にいたケンちゃんに徳利を差し出す。店主がカウンター越しに、空になった徳利を受け取った。  山下さんがケンちゃんを、とてもまぶしそうに見つめている。 「本社の近くにある、きつねのお面をかぶっている若い大将がいるって……この、うどん屋の話をしてもですね。同期も先輩も誰も信じてくれなかったんですよね」  おきつね店主が「ふふっ」と口元をゆるめた。  
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