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ここにいる中学生三人の出身地は六郷市の誉田村。そこは過疎地で小学校より後の教育施設がない場所だった。
三人が四年生になった直後、親たちが行動に出た。三家族は一斉に引っ越しの宣言をした。もっとも親同士は子供たちが知らないうちに話し合っていたようだが。
まもなく三人は、二十キロ以上離れた街の小学校へ転校することになった。
生活環境の変化に慣れるのは大変な苦労だった。それにすぐ始まる中学校への関心が大きかった事もあって、三人はここ最近すっかり誉田のことを忘れてしまっていた。
「電車に乗るのが面倒過ぎる……」慣れた手付きではんだ付けを続けながら、マルが不満を言った。
「マルは歩くのにも文句を言うんだから。少し運動しなさいよ」呆れ顔の小夜。「ねえ、本気で計画しよ! 学校公認で泊まりに出かけられるなんて、楽しくない?」
「おいおい、お前たち未成年だろ。それに先生が言ったのは個人の意見だぞ? 学校公式の会話にするなよな」
「気が小さいなあ。大丈夫ですって。先生は名前を貸してくれれば良いだけですから」
「あーのーなー。万が一何かあったら先生の細い首がだな――」
「悪くないかも。友達はさ、この連休みんな国内とか海外旅行だって言うし、暇してたんだ。時間潰せるなら大歓迎だ!」
「僕はこいつを仕上げたいんだけどなあ」
「マル! あなたが同好会を作りたいって言った時に、こうして私たちが協力して名前を貸してあげたから、毎日楽しい思いができるんでしょ? 恩返し、恩返し!」小夜が肩をつかんで揺らし、マルの作業の邪魔をした。
このやり取りが旅のきっかけだった。
顧問の先生はこれよりさき登場することなく、あっという間に旅の計画が決まっていった(熱心な小夜のおかげだった)。
旅は予定が決まると、出発までの時間があっという間に過ぎていく。気づいたとき、三人はもう車中の人だった。
「なあに、マルのその大荷物」
電車の中で鞄を棚に上げ終え、座ろうとした小夜が聞いた。
いちばん出かけたく無さそうだったマルが、もっとも大きなカバンを持っていた。電車が揺れる度にガチャガチャと耳障りな音を立てるので皆が気にしていた。
「いろいろと、無いと不安なもの」ぶっきらぼうに答えるマル。
「俺なんて身ひとつだぜ」
小柄なスポーツバッグを見せびらかす瀧に、小夜が突っ込みを入れた。「持ち物、少なすぎ!」
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