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「ひっどいな、これ」  森の想像以上の荒れ具合に、不真面目が売りで茶髪の(たき)ですら、ショックを受けたようだった。 「ここが私たちの遊んだ誉田(こんだ)の森だなんて、信じられない」  小夜(さや)はそれ以上言葉を続けられず、肩を落としていた。表情は良く見えないが、頬にかかる真っ直ぐな髪が震え、細かく揺れていた。 「……」  小太りのマルは、ひとことも言えていなかった。  少年・少女たちが誉田の村を訪ねたのは、秋の大型連休の最後の三日間だった。  この三人は性格も好みもバラバラ。それなのに普段から行動を共にしているのには訳がある。幼馴染みという事と中学校の電子工作同好会のメンバーだというのがその理由。  大親友でもなく、といって三人が集まらない日もないという不思議な組み合わせだった。 「俺か言ったら駄目なんだけどさ。お前らみたいな若いもんが、日がな部屋に閉じこもってるのは先生どうかと思うぞ」  松やに(ロジン)の臭いと煙か漂う技術の教室で、同好会の顧問がぽつりと言った。 「暇してるわけじゃありません。生徒らしく部活動してるじゃないですか」  発光ダイオード(LED)の素子をまたひとつ回路にはんだ付けした小夜が、頬を膨らませて反論した。 「小夜の言うとおりです」机の向かいで同じ作業に(いそ)しむマルも同じ気持ちだった。「忙しいからこうして頑張っています。それに」視線をそちらに向ける。「さぼっているのは、あそこの瀧だけです」 「なんだと!」組み合わせた椅子の上で寝そべっていた瀧が頭を持ち上げた。手には雑誌を持っていた。「人聞き悪いじゃないか。俺もちゃんと参加しているってのに」 「さぼってるようにしか見えないけど?」 「ばっか。世の中に電子工作がどれぐらい浸透しているか、一般的に売られている書籍を調べているんだって」 「馬鹿はあなたよ」 「その書籍、世の中じゃあ漫画っていうんだけどね。ほんと詭弁家(へりくつ言い)だよね、瀧」  本格的な言い合いになる前に先生が割って入った。 「ちょっと話が逸れてるぞ。先生が言ってるのは、文化祭の準備に熱中するのも構わんが、少し気分を変えてみないかって話だ。ほら、窓から外を見てみなさい。秋はまだ寒くないから散歩にはぴったりの季節だ。郊外にでも出かければだな――」  特に深い考えなく言った先生の台詞が、少女の隠れたスイッチを探り当てた。 「じゃあ、誉田(こんだ)村に行こうよ!」  小夜がいきなり大声で教師の話を断ち切った。それは思いついたら口を開かずにいられない性格の彼女らしい脈絡のない提案だった。 「あたしの親戚の家なら三人ぐらいは泊めてくれるよ」 「こ、誉田? 随分遠いな。しかしまた何で突然そんな所に――」 「お、誉田かよ! 懐かしいなあ。俺は引っ越してから全然行ってないけど、お前たちもだろ?」  小夜とマルは首を縦に振った。
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