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普段は身長差が然程ないので視界にも入りませんが、机作業となると、その補助作業で椅子に腰かけるアルセンの周囲を動く事になるピジョン曹長の視界に何かと湿布が入る事になっていました。
ここでロマサ・ピジョン曹長の面目の為に断っておくべきなのは、元々思慮深く、注意深い事で、慣れない団体生活を送る新人訓練生達を気遣う事が仕事でもあるので、上司の変化についても必然的に何かと気が付くという事である。
「上から見た時や、書類を書いてる時に出来る服の隙間から見えてましたよ。
その分だと、昨年と同じく背中中にグランドール様に貼ってもらったんですか?」
「ええ、英雄に貼って貰うなんて、パドリック家の誉にしなければいけません」
実際には、一晩たって起きてみれば昨年と同じ様にマッサージ痕が白い肌に見事に残っていたという事になる。
ただ、やはりマッサージの甲斐あってか、痕は残れども、凝りはスッキリ解消という事で、アルセンとしては一向に構わない結果となっていた。
そんな上機嫌な美人な後輩に、自分の指の痕が生々しく残る白い背中に、部下が造ったという軟膏と共に湿布を、褐色の大男が"やれやれ顔"で塗りつけて貼り付けていたのが、今朝の出来事となる。
「それじゃあ、自分はケーキとお茶を取ってきますね」
「ええ、よろしくお願いします」
そう言って、ピジョン曹長が退室をしアルセンが伸びをして少々悩ましくも聞こえる声を出した後時、丁度時刻は夕刻前となっていた。
「……アルスとお嬢さんは、王都からもう魔法屋敷に戻る頃ですかね」
―――折角、同じ場所に居るのに会えないのはどことなく寂しくなる。
そう思って、アルセンは小さく息を吐いていた。
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