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豊肥本線
いよいよ阿蘇谷へ
20歳の夏に初めて九州を旅した時、熊本から大分方面に向かう豊肥本線に乗って阿蘇山へ向かった。阿蘇の噴煙を上げる火口は小学生の頃から見たくて、10年越しの願いが叶えられるとワクワクしながら天下の名城などからなる熊本の市街地を東へ抜ける豊肥本線序盤の車窓を眺めていた。
阿蘇山は噴煙を上げる火口のみならず火口周辺には東西に約18km、南北に約25kmの巨大なカルデラが広がっている。
カルデラとはスペイン湖で鍋や釜という意味で、噴火後に地上に噴出したマグマのあった地下に空洞が出来てそれが原因である陥没により形成されたと言われている。文字通り鍋のような形をしている。カルデラを取り囲み鍋の淵にあたる外輪山が取り囲んでいるが、阿蘇の場合ちょうど東側に鍋の淵に切り口を入れたような狭い谷が存在する。
その谷底に立野駅がある。立野駅ではカルデラの底にあたる平野部を走る路線が南北に別れる。そのうち南側にあたる南郷谷に行くのが南阿蘇鉄道である。白水村での名水などが知られ途中に「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」という長い駅名の駅も存在することからもこの辺りが豊富な水に恵まれているのを表しているのだろう。
北側である阿蘇谷に向かうのが豊肥本線の続きである。立野駅から大分方面への豊肥本線の列車は一旦西側に戻りながら途中のポイント(分岐点)にて熊本から来た左側の線路ではなく右側の線路を上がって行く。行き止まり地点で再び東側に進行方向を変えてもう一つのポイントで立野駅から来た右側の線路ではなく左側に入るスイッチバック形式で外輪山の北西部分の内側に沿って阿蘇谷へと登って行く。私も立野駅で一旦途中下車をしてスイッチバックの途中で列車の進行方向を変える行き止まりの地点まで線路沿いを歩いて辿った。それだけ
「いよいよ阿蘇に入る」
とワクワクする立野駅周辺を勿体ぶるかのように、時間をかけてゆっくりとなぞりたかった。行き止まりの地点付近では夏草が緑濃く生い茂っていた。
阿蘇谷は南郷谷と同様に湧き水が豊富で平らな土地がわりと広く、昔から農業に適しおり車窓にも田園風景が広がっていた。阿蘇山の周りを9時(立野駅付近の西側)から12時(阿蘇谷中央部の北側)方向に弧を描くように周りながら走り、やがて高原の雰囲気を醸し出す阿蘇駅に到着した。
立野駅付近の一帯も2016年の熊本地方を襲った大地震で土砂崩れなどで大きな被害を受けた。その影響で豊肥本線の肥後大津と阿蘇駅との間と、南阿蘇鉄道の一部を除いた区間で不通となった。
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