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可憐なる殺人者
人間というのは、自分よりもか弱く美しいものには甘くなる生き物だ。私はそのことを熟知している。
かつて私が不注意から車に撥ねられそうになった時、ある男の人が間一髪で私のことを突き飛ばし、身代わりとなって車に轢かれたことがあった。
きっとその人は、私が屈強な肉体の男であったとしても同じように助けてくれたのだろう。
だが、私の華奢で可憐な姿を見て、「守らなければ」という気持ちはより一層増幅されていたのではないか。そして私は気付いた。
「この体は、使える――」
私は元々ウンザリしていた。この世界の人々に。
私の内心を尊重せず、自分勝手な考えを押し付けてくる人々に。
さっさと自らの命を絶てば良かったのだが、それはそれで惨めだ。何とかこの世界の身勝手な人々に、一泡吹かせてやりたかった。
そんな折に経験した、先述の事件。
私はそれを再現するように、何度も何度も道路にわざと飛び出し轢かれかけては、誰かが身代わりになるのを待った。
思惑は的中、人々は私の小さな手の平で踊らされていることにも気付かず、その命を投げ出して私を守った。あまりにも上手く行き過ぎて、もはや笑いが込み上げてくるほどだった。
これも全て、私の生まれ持った容姿のなせる技。
これからも私は、この武器を駆使して殺人を重ねる。私を苦しめ、弄んだ人間どもへの復讐を重ねる。
私は生まれて初めて、自分が猫であることに感謝した。
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