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昔は動物とは化けるものだったらしい。狐や狸という有名どころはもちろん、猫も犬も化け、カワウソだって化けていた、らしい。そいつらが人間になりすまして驚かせるなんて説話は、古文の授業でも出てくるところ。
しかし、逆に人間が狐や狸に化けるなんて話は聞いたことがない。いや、絶対にないだろう。ましてやカワウソなんて。
「おい、椎名。見た目がカワウソだからって生魚はいらん」
「――」
が、目の前の事象を否定するのは果てしなく難しい。椎名美織は、テーブルにちょこんと座って生魚に不満を述べるカワウソに、沈黙してしまった。
「おい。世話をする気がないなら解放してくれ。俺だってお前の世話になりたくない。自分で解決する」
「いや、でも、秘密を知っちゃいましたし。それに、もしかしたら科学の力でその謎が解けるかもしれないんでしょ。協力します」
「――だったら、俺がカワウソとしての性質を備えているかなんて、馬鹿な検証は止めてもらえるか」
「す、すみません」
しかも、しかもこのカワウソは先輩なのだ。美織の憧れ、大学四年になって知り合った研究室の先輩。今はキュートで可愛いカワウソ姿だが、人間に戻れば身長百八十センチ、すらっと長い足にイケメンな顔を持つ男なのだ。名前を占部史晴といい、今年で二十八歳。
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