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「ったく。そんな無駄な意地を張らずに進学すれば良かったんだ。数学の才能があるからって研究者として成功するわけじゃない」
「で、ですね」
呪われているかもしれないのに、そんなにバッサリ。思わず呆れ返った美織だが、何とも複雑な話になってきた。というより、呪いそのものが複雑なのも、この二人の人物が史晴に抱く感情が複雑だったからではないか。
「ひょっとして」
伶人が論文を読み解いてほしかった相手は史晴だったのではないか。それが史晴に負けたと思った清野が取り組んだことで、さらに話がややこしく。ううん、だから、結局はややこしくしかならないのだ。
二人の感情が史晴に向いているからこそ、いや、史晴に勝ちたい、認めさせたいと思っているからこそ、この複雑な呪いは成立しているはずだ。では、清野は恨んでいるのだろうか。
「まだまだ謎よね」
「ん?」
「いえ」
思わず呟いた独り言に史晴が反応し、何でもないですと慌てる。こうやって一緒にいて、楽しいし面白い人なのに。そんな史晴は、無意識のうちに二人の人生を狂わせてしまった。それが、何だか悲しい。
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