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史晴は美織が世話になっている研究室、加藤研究室の一員で、二十八の若さで助教に抜擢されるほどの秀才でもある。でもあるのだが――
「本当に、解けるのかな。この呪い」
史晴は不安そうに自分のカワウソボディを見つめる。そう、なぜかカワウソに変化してしまうのだ。それも、人間として活動出来る時間が大幅に制限されてしまっている。限界になると強制的にカワウソになってしまうという、非常に困った状況なのだ。
「解けますよ。私が必ず解いてみせます」
美織はぐっと握りこぶしを作るが、しかし、まったく解らないのも確かだ。どうやら誰かに呪いを掛けられているらしいのだが、まったく解決の糸口はない。史晴自身も頑張って調べているそうだが、なんせ人間でいられる時間の十二時間は研究に費やしてしまっている。つまり、カワウソ姿で謎を解くしかなく困っているのだ。この姿でもパソコンが使えるのだというのに驚くが、効率はよくない。
そこで、たまたま、そう、たまたまその秘密を知ってしまった美織が、史晴の手伝いをすることになった。憧れの先輩を手伝えるのは嬉しいが、仮にも物理学で学位を取ろうとしている人間が、呪いを解くお手伝いなんて。美織は今、大学院に進んで修士一年だ。そんな、世間で言うところのリケジョの美織が、よりによって物理学者に掛けられた呪いを解く羽目になるなんて。
いや、そもそも物理学者たる史晴が、自然法則ガン無視のカワウソに変化してしまうというのも大いなる謎だ。ひょっとして、触れてはいけない自然の何かに触れてしまったのか。それとも本当に呪いで、誰かから恨まれているのか。
「前途多難ですけど」
「そうだな」
言葉とは裏腹にどんよりする美織に、史晴も溜め息。協力し始めて一ヶ月。その難しさに嫌気も差してくるし、手がかりがなくて諦めたくなる。
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