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変死事件
俺はポラード。田舎の寂れた教会で、しがない神父をしている。
日中、教会に来るのは数人の老人だけだ。だから俺がやることはと言えば、聖書の朗読が主になる。
若者がいない訳ではないが、今にも潰れそうな教会に、わざわざ足を運ぶ物好きなんていやしない。
俺は今日も、聖書の朗読に精を出す。
気だるい毎日だが、生活には困らない。ある意味、聖書を読んでいるだけで暮らしていける気楽な商売だ。
だが最近、そうはいかなくなった。
やたらと猫の死体が発見されるようになったのだ。
村の連中が ” 何かの呪いだ ”と騒ぎ出し、どうにかしてくれと教会に駆け込み懇願されては、聖書ばかり読んでいる訳にもいかない。面倒でも神父という立場上、信者の心労を取り除くべく、常に勤労奉仕の精神を持って動かなくてはならないだろう。
等身大の俺の中身が、どれだけロクデナシでもだ。
俺は重い腰を上げ、しぶしぶ原因を調べ始めた。
よくよく村内を観察してみると、この村はやたらと猫が多いことに気が付く。
その殆どが野良猫なのだが、暇な老人達にとっては良い遊び相手のようで、可愛がって餌付けをし過ぎた結果、ここまで増えてしまったのだろう。
外へ出る前に、教会の重厚な扉の、向かって左横の壁に設置された姿見で身だしなみを整える。一応、外見くらいは気を付けるべきだろう。中身はいくらでも取り繕えるが、見た目はその場では無理だ。
そうして人の目に触れるところだけ整えると、取り敢えず教会の周辺を歩いてみる。
曇り空の下、大人の背丈ほどに伸び切った雑草を、掻き分けながら歩き続ける。
―― 草刈り、寒いし面倒だからな。ここ何カ月もサボっていたから仕方ない。
ここは一応は教会所有の土地なので、本来俺が管理しなくてはならないのだが、寒さにかまけて管理を怠っていた。
そもそも俺は流浪の神父だ。いつ教団から命令が下って、何処へ流れるか分からない。だから管理が多少いい加減だということもある。
苦労しながら進み、ようやく草むらを抜けて少し開けた場所に出た時、早速、ぐったりと横に倒れた白い猫の死体を見つけた。
ともすれば寝そべっているだけのようにも見える死体に、手でそっと触れてみる。
―― まだ温かい。死んで、時間はさほど経過していないみたいだ。
俺は猫の死体を抱きあげてみた。何となくだが、軽い気がする。
そんな違和感を覚えていると、ぽたり、と地面に何かが落ちた。視線を下げて見ると、茶色い土と緑の草しかなかった所に、鮮やかな赤い血痕が彩を添えている。
どこか怪我をしているのかと、猫の死体を良く観察する。すると猫の首の辺りに二つ、赤い穴のような痕があり、そこから血が滴っていた。
「これはっ!」
思わず声が出てしまった。
焦燥が身の内を駆け巡り、脳裏では危機感が警鐘を鳴らす。
普通の死に方ではない。誰かの、もしくは何らかの手が加わって死に至らしめられた可能性がある。
跳ねた心臓を宥めながらも、今までの経験から嫌な予感を感じた俺は、今回の野良猫変死事件を調べる事にした。何かピリピリとした邪悪な空気を、感じずにはいられなかったからだ。
単なる杞憂で済めばいいが……。俺は、そう願わずにはいられなかった。
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