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三日間の調査で猫の死体を五体発見したが、どれも首の辺りに赤い二つの穴のような痕があるという共通点が見つかった。
村の連中にも話を聞いてみたが、猫の死体の殆どに、同じ痕があったらしい。
鋭い針のような物で刺されたのかと思ったが、傷口を良く見てみるとどうやら違うようだ。二つの穴が水平に、綺麗に並んでいる。
まるで蛇のような生物の牙が、喰い込んだ痕のように見える。
人間が何かしたとしても、こうはいかないだろう。
俺は座り込み、今日見つけた黒い猫の死体を眺めた。
黒猫が目の前を横切ると縁起が悪いという言い伝えもある。そういえば、遺体を猫に跨れたら、ヴァンパイアになるなんて話もあったな。
―― ヴァンパイアか……まさかな。
「あら神父様。毎日ご苦労様」
若い女性に声をかけられ、振り向く。
「高杜さん。どうされました? 少々、お顔の色が……」
高杜 凪咲さん。最近この村に越して来た、何処かミステリアスな雰囲気を漂わせている女性だ。
今時の若い人にしては珍しく、熱心に教会に通い、俺の聖書の朗読に欠伸一つせず真剣に聞いてくれている。
高杜さんは頬に手を当てて、憂いを含んだルビーのような赤い瞳を俺に向けた。
「最近、物騒な事件が続いておりますでしょう?だから少し、心配なのよ。今日もここへ来る途中、猫の死体を見かけて……。けれど、神父様が頑張って下さっているんですもの、安心して日々の生活を送れますわ」
「いえ、今はまだ調べている段階です。解決には至っていません」
それを聞いた高杜さんは、俺の傍に横たわる黒猫の死体に目を向けた。
「一体、誰がこんな酷い事を……」
「人とは限りませんよ」
その一言に、高杜さんの表情が強張った。
怯えているのだろうか? 中には動物を虐待していた輩が、人間に標的を移すこともままある。若い女性に、それは怖かろう。
俺は安心させるために、気休めの一言を付け足す。
「私が言っているのは、獣の可能性もあるという事です」
獣? と高杜さんは目を丸くしてから、ふふっと笑みを浮かべた。
「神父様が真剣な表情で仰るので、悪魔か何かの類かと思ってしまいましたわ」
「悪魔はないですよ。獣の類の仕業だと思います。良く調べてみますので、安心してお過ごし下さい」
俺は軽く笑いながら、高杜さんと別れた。
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