猫の血

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猫の血

 困った世の中。  最近は薬漬けになっている人間が多くて困るわ。  血が不味(まず)くて仕方ないの。みんな、薬の飲み過ぎよ。  そんなに長生きしたいのかしら?  あんなにたくさん薬を飲まなくても、私が一噛みすれば、不老不死の肉体が手に入るというのに……。  医者にかかる必要なんて、全くなくなるのよ。(すご)いでしょう? その代わり……。  永遠に私の下僕として、働くことになるけどね。  人間の血はあまりに不味(まず)いから、たくさんいる猫の血で我慢しているのよね。  あの神父……。  聖職者のくせに、血は不味(まず)そうだわ。  聖書は棒読み、規則正しい生活なんて送っていやしないし、行動面も神父の風上にも置けない感じ……。  けれど、たまに聖職者の血が(すご)く欲しくなるのよね。  神に祈れば治ると信じているから、薬を乱用しない。その上、清廉潔白(せいれんけっぱく)であれと自身を(りっ)するその(こころざし)から、極上の甘さと芳醇(ほうじゅん)な味わいを(ただよ)わせる濃厚な血液。 毎日、猫の血ばかりじゃ味気(あじけ)ないわ……。そろそろご馳走(ちそう)も欲しいのだけれど。  そういえば、最近は猫に何故かお(ふだ)が貼ってあるのよね。  あんなただの紙きれを貼った所で私には何の効果もないのに、身を守る為かお(ふだ)を貼られて歩いている猫を見ていると、あまりに滑稽(こっけい)で笑えてしまう。  猫の血、最初は斬新(ざんしん)な味わいだったけれど……。  もう()きたわ。  やっぱりそろそろ人間の血が、とりわけ聖職者の血が吸いたい所ね。  それに、下僕(げぼく)も欲しいわ。  この村に来る前に、教団の連中との戦いで失ってしまったから……。  あれは残念だったわ。使い勝手が良かったから、お気に入りだったのに。灰になった所を連中に封印されてしまったから、復活は無理ね。  ポラード神父の血……。  (すご)不味(まず)そうだけど……あれでも一応、聖職者よね。  下僕にしても(なま)けてばかりで全く働かなさそうだけれど……。まぁ見た目だけなら? 合格かしら。  それにしても、猫の血だけで身体を維持するのって、大変だわ……。  私は今日も猫を(つか)まえて、その血を口にする。  私のご飯は、日が暮れてから。曇天(どんてん)なら、少し早めの食事をすることもある。  腕に抱く猫は痙攣(けいれん)し、砂時計の砂が落ちていくようにその命の(ともしび)を弱めていく。最後の一滴を吸いつくすと、ピクリとも動かなくなった。  今日もやってしまった。どうしても物足りず、吸い尽くしてしまう。  毎回加減を間違えて、その度に猫の命を奪い取っては、少しばかり気が引けて落ち込むのだ。  だって猫は死んだ後、下僕として復活させる事が出来ないから。
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