53人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
猫の血
困った世の中。
最近は薬漬けになっている人間が多くて困るわ。
血が不味くて仕方ないの。みんな、薬の飲み過ぎよ。
そんなに長生きしたいのかしら?
あんなにたくさん薬を飲まなくても、私が一噛みすれば、不老不死の肉体が手に入るというのに……。
医者にかかる必要なんて、全くなくなるのよ。凄いでしょう?
その代わり……。
永遠に私の下僕として、働くことになるけどね。
人間の血はあまりに不味いから、たくさんいる猫の血で我慢しているのよね。
あの神父……。
聖職者のくせに、血は不味そうだわ。
聖書は棒読み、規則正しい生活なんて送っていやしないし、行動面も神父の風上にも置けない感じ……。
けれど、たまに聖職者の血が凄く欲しくなるのよね。
神に祈れば治ると信じているから、薬を乱用しない。その上、清廉潔白であれと自身を律するその志から、極上の甘さと芳醇な味わいを漂わせる濃厚な血液。
毎日、猫の血ばかりじゃ味気ないわ……。そろそろご馳走も欲しいのだけれど。
そういえば、最近は猫に何故かお札が貼ってあるのよね。
あんなただの紙きれを貼った所で私には何の効果もないのに、身を守る為かお札を貼られて歩いている猫を見ていると、あまりに滑稽で笑えてしまう。
猫の血、最初は斬新な味わいだったけれど……。
もう飽きたわ。
やっぱりそろそろ人間の血が、とりわけ聖職者の血が吸いたい所ね。
それに、下僕も欲しいわ。
この村に来る前に、教団の連中との戦いで失ってしまったから……。
あれは残念だったわ。使い勝手が良かったから、お気に入りだったのに。灰になった所を連中に封印されてしまったから、復活は無理ね。
ポラード神父の血……。
凄く不味そうだけど……あれでも一応、聖職者よね。
下僕にしても怠けてばかりで全く働かなさそうだけれど……。まぁ見た目だけなら? 合格かしら。
それにしても、猫の血だけで身体を維持するのって、大変だわ……。
私は今日も猫を掴まえて、その血を口にする。
私のご飯は、日が暮れてから。曇天なら、少し早めの食事をすることもある。
腕に抱く猫は痙攣し、砂時計の砂が落ちていくようにその命の灯を弱めていく。最後の一滴を吸いつくすと、ピクリとも動かなくなった。
今日もやってしまった。どうしても物足りず、吸い尽くしてしまう。
毎回加減を間違えて、その度に猫の命を奪い取っては、少しばかり気が引けて落ち込むのだ。
だって猫は死んだ後、下僕として復活させる事が出来ないから。
最初のコメントを投稿しよう!