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今日は大好きな動画配信者そらかもめさんの生放送の日だ。
俺は生放送の五分前からパソコンの前で待機している。
しばらくすると、そらかもめさんのテーマ音楽が流れて、テロップが画面に出た。
「そらかもめの最恐体験! 暑い夏を涼しくのりきろう!」というテロップだ。
「おお! きたきた」
パソコンに視聴者のコメントがいっぱい流れる。俺も挨拶しないとな。無難に『そらかもめさん、こんばんわ』とコメントを打つ。
「みなさん、こんばんわ! そらかもめです。今日は生放送だよ」
そらかもめさんは画面の前で手を振る。小柄で可愛い顔立ちをした二十代前半くらいの女性で、彼女の動画は芸術的な撮り方で人気があった。画質も4Kで撮影されている為、綺麗だ。
登録者は俺も含めて十万人ほどだ。
「そらかもめさん、今日も可愛いな。夜なのに画質もいいし」
そらかもめさんの後ろにはボロボロの廃墟みたいなものが映っている。
「今日はT市にある廃病院跡地に来ています。今日はこの中を探検する企画です。早速、中に入りましょう」
肝試し企画かな? T市の廃病院跡って有名な心霊スポットだよな? あんなところにそらかもめさん一人で大丈夫なのかな?
「はい! 中に入りました。ここは受付かな? もう少し進んでみましょう」
診療室の中に入って、放り出されたままの聴診器を手に取り、解説しているそらかもめさんだ。
怖くないのかな? 俺だったら絶対一人では行きたくない。
『そらかもめさん、大丈夫?』『マジ、最恐!』といろいろなコメントが流れる。
「大丈夫! 怖くないよ。次は2階に来ました。病室かな? たくさん部屋があります」
カメラを向けた先には廊下が映っていて、壁には壊れたドアがいくつかあった。窓には破れてボロボロになったカーテンがかかっていて、ガラスが割れている。
「次は三階に行きましょう」
そらかもめさんは階段を上っていく。あれ? 彼女の後ろにふわっと何かが横切った気がする。もしかしてヤバいやつ?
「三階です。ここにも病室があります。奥に行ってみましょう」
画面はどんどん奥に向かっていく。奥はつきあたりになっていて、上に「手術室」という文字が見える。
『これ以上はヤバいって』『そらかもめさん、超逃げて!』とコメントが流れる。俺も『今すぐ出た方がいいと思う』とコメントを打つ。
「ここで最後だから大丈夫だよ。では中に入ります」
笑顔でひらひらと手を振って、そらかもめさんが「手術室」の中に入る。画面には手術台と錆びた手術器具と思われるものが置いた台が映っていた。手術台にはうっすらと血の跡と思われるしみが浮いている。
あまりの生々しさに俺は心拍数が跳ね上がり、背筋に嫌な汗が流れる。
「手術台ですね。いろいろな器具が置いてあります」
錆びたメスを手に取り、画面に向かってポーズをするそらかもめさんだ。その時、画面にザーというノイズが入って、消える。
「マジか!」
画面に『どうしたんだ?』『故障かな?』とコメントが流れる。
五分ほどで画面が復活して、そらかもめさんの姿が映る。彼女の背後には冒頭に映っていた廃病院が映っていた。既に外に出てきているようだ。無事で良かった。
「途中、ノイズが入ってすみませんでした。それでは視聴者プレゼントです」
お! そらかもめさんのプレゼント企画だ。今回は何かな?
「今回の生放送を見て、何かが見えた人はコメント欄に書き込んでください。先着一名様です。ご視聴いただきありがとうございました!」
俺は『お疲れ様でした』とコメントを書き込んだ後、三階の階段に上がる途中で、ふわっと何かが横切ったこともコメント欄に書き込む。俺以外書き込んでいる人はいない。俺が一番かな?
「おめでとう。君にプレゼントだよ」
ふいに背後から声がする。この声は!?
「え? そらかもめさん?」
俺の後ろに立っていたそらかもめさんがにやりと笑う。どうして俺の部屋にそらかもめさんがいるんだ? 背筋に冷たいものが走り、ぞっとする。
「ねえ、見えた時にどうしてコメントをくれなかったの?」
そらかもめさんが一歩ずつ近寄ってくる。彼女の首から血が滴っていた。錆びた手術道具がいくつも刺さっているからだ。
「ひっ!」
手には錆びたメスが握られている。
「おかげで私死んじゃったじゃない。だから君にプレゼントをあげる」
「いいい……いらない……くくく……くるな! バケモノ!」
メスは俺の心臓をめがけて一直線に振り下ろされた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!!」
◇◇◇
「知ってる? T市の廃病院跡って出るんだって。ほら! 人気動画の人、何て言ったっけ? あの病院で亡くなったらしいよ」
「ああ。そらかもめさんだった? そういえば、うちのクラスメイトの男子でその人のファンだった子がいたんだけど、行方不明になったんだよね」
「後追い自殺とか? 怖いよね」
「心霊スポットなんて遊び半分で行くものじゃないよね」
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