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第6話(秋人side)
「ねえ、いい加減通うのやめたら?そっちの欲しい情報なんて何ももってないし、お金の無駄だよ。」
ため息まじりにそう言って、充は秋人と仁を見た。
六畳間には布団が3式敷かれ、秋人と仁と充の3人はまるで旅行の夜のようにそれぞれの布団に入った状態で談話をしている。
秋人たちが初めてこの娼館に来てからすでに2週間は経っており、その間に秋人と仁は5回以上ここを訪ねているが、充は何を聞いても知らないの一点張りで教えてくれない。
もちろん充が本当になにも知らないのならば秋人たちもこんなことはしないが、充は時々言葉に詰まったり何かを隠すように辻褄の合わないことを言ったりするのだ。怪しい。
娼館では一度怪しいと疑われれば出禁になってしまうため、下手に身元調査などはできない。そう言うわけでこうして娼館で異様な光景が創り出されたのである。
「では知っていることを全て教えてくれないか。」
「…あんた、話は聞いてたかい?」
充は3回目の訪問から、秋人に呆れたのかこんな調子だ。
「…充、秋人様の呼び方としてそれはどうかと… 」
「仁も言っておくれよ。無意味だからもう来るなって。」
「私は充に会えることを嬉しく思いますが…。」
「…そういうことは嫁にでも言いな。」
「…独身ですので。」
「えっ…?」
ちなみに、仁と充の間で何かいい雰囲気が流れているのはまた別の話である。
と、そのとき、“しつれいします”と、障子の外から声が聞こえてきた。
「…みーちゃん、あのね、」
「…!?開けるんじゃないよ!!」
充は慌てて障子を抑えようとしたが、それより早く秋人が障子を開けた。そこから、紛れもない春臣の香りがしたからだ。
「………あっくん… ?」
こくり、と首を傾げた彼は、少し考えたようにしてから、まだ声変わりしていないのであろう高い声でそう紡いだ。
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