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第7話(春臣side)
朝起きると、いつもよりずっと上質な布団の中にいて、心地よい香りに包まれていた。
あれ、ぼく、どうして…。
一瞬考えて、昨夜のことを思い出す。
昨夜春臣は常連客にいつも以上の暴力を振るわれ、背の低い箪笥の角に膝を打ち付けて怪我をした。
あまりにもひどく流血したため誰かに助けを求めようと廊下を歩いていると、近くの部屋から和気藹々とした充と誰かの話し声が聞こえてきて、おそらく茶を引いているのだろうと思って中に入ったところ、知っている人物、秋人がいたのだった。
春臣は、母親が死んでからいくつかの家を転々としてきた。その中の1つ、九条家の子息が秋人だった。
春臣には、家を転々としていた頃の記憶があまりない。しかし秋人との記憶だけはしっかりと心に刻まれていて、今でも星の綺麗な夜は、彼のことを思い、会いたいと願う。
秋人はとても大人で博識で、時々春臣のことを連れだしては、色々なことを教えてくれた。
中でも月のない夜に秋人に連れられて九条家の庭で満点の星を見た時に教えてくれた“星座”というものは、春臣のお気に入りとなった。
彼のそばにいるととても心地が良くて、いつでも喜びを感じていて。
彼を探して周りを見渡すが、部屋の中には誰もいない。
「ああ、はる、おはよう。」
しばらくして、障子の開く音とともに充が入ってきた。
「みーちゃん、あっくんは?」
「ああ、あのひとね。いつもこれでもかっていうほど朝早く帰るんだよ。
…それより昨日なんで客がいるのに入ってきたんだい?」
充は明らかに腹を立てている。
「…おきゃくさん、いないって、おもって…。」
「客がいないのにあの部屋にいるわけがないだろ?」
「…ごめんなさい… 」
考えてみればそうなのだ。しかしあの時は気が動転していて。
「まあいい。それよりあの人、お前がここに来る前にいた家の住人かい?」
頷くと、充はさらに怖い顔になる。
「あいつはお前を引き取るつもりだよ。断りな。」
ひどくぶっきらぼうに言いすてて、そのまま充は部屋から出て行ってしまった。
入ってきた情報が処理しきれずに混乱しながら、春臣も彼の後に続く。
「どうして?」
充に聞いてみる。
秋人が自分を引き取る理由なんて全く思い浮かばないが、秋人が自分を引き取ろうとしているのなら、また秋人と一緒にいられる。大好きな彼と過ごせるなら、春臣はとてもうれしい。なのにどうしてダメなのか。
すると充はひどく不機嫌そうに当たり前だろ、と言った。
「お前はあの人を不幸にする。絶対に。」
意味がわからず混乱している春臣に対し、部屋に入ると充はその理由を淡々と話し始めた。
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