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第10話(秋人side)
3日に一度は娼館に赴き、春臣との逢瀬も5回目となった。
春臣は甘い物を好むため、土産として甘いものを持っていき、話しながら一緒に食べて眠るのがいつもの流れである。
仁はついてきたりこなかったりであるが、秋人がいない日に充のところへ通っていることもあると春臣伝いに聞いた。
今春臣は、秋人の持ってきたのし梅を口に含み、溢れんばかりの笑みを浮かべている。
「おいしい!これ、なーに?」
笑顔ではしゃぎ気味に言葉を紡ぐ姿は愛らしく、その愛らしさに胸が締め付けられる程だ。
「のし梅、という菓子だよ。気に入ってくれたのならよかった。」
「梅ー?」
「ああ。」
「あっくんと見たおはな!」
春臣が楽しそうに笑い、そういえば一緒に梅を見たことを思い出す。
春臣と過ごしたのは、桜には少し早い、梅が見頃の時期だった。
その花と同じ香が自分からすることに彼は気づいているだろうか。
考えていたら、突然彼に触れたい衝動に駆られた。優しく腕を掴んで引き寄せ、あぐらの上に乗せる。
「…あっくん…?」
ことん、と首を傾げる様子が、また可愛らしい。
あまりに可愛らしいので、今度はその髪に顔を埋め、抱きしめてしまった。
「あ、あのね… 」
しばらくそうしていると、なにか言いにくそうに春臣が口を開いた。
なんだ?と秋人は髪に顔を埋めたまま聞き返す。
「…あっくん、ごほうし、いらないの…?」
予想外の発言に、一瞬頭が真っ白になった。
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